エヴァンゲリオン、美しく静かなラスト...ファンもこの世界から踏み出す時がきた

2021年9月8日(水)19時40分

<旧作とはひと味違うエンディングによって『シン・エヴァンゲリオン』は終着点らしい傑作になった>

その象徴性、そして影響力の大きさにおいて、アニメ史に燦然と輝く存在である一方で、非常に難解でもあるのが庵野秀明の「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズだ。

1995年に放映が始まったテレビアニメ版に97年の劇場版、今世紀に入ってから作られた「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」4部作──。物語の結末の描かれ方も1つではない。そして最新作にして真の完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(アマゾン・プライムで配信中)は、シリーズ中の最高傑作であるとともに、シリーズ全体をどのように捉えるべきかについての庵野の新たな主張がうかがえる作品だ。

物語をざっと説明しておこう。碇シンジ、式波・アスカ・ラングレー、綾波レイの3人の少年少女は「エヴァンゲリオン」と呼ばれる巨大ロボットのパイロットを務めている。当初は特務機関ネルフの下で謎の敵「使徒」と戦っていたが、今はネルフの元職員たちが結成した反ネルフ組織ヴィレの側にいる。ネルフを率いているのはシンジの父、碇ゲンドウ。彼は亡き妻と「再会」するために、今のような在り方の人類を滅ぼす「人類補完計画」を引き起こそうとしている。

『シン・エヴァ』は新劇場版4部作を締めくくる作品だ。1作目の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』はざっくり言えばテレビアニメの1~6話をまとめたものだった。だが次の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、物語は新たな方向に動きだし、3作目の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』では全く新しい要素や展開が飛び出した。

テレビ版を凌駕するエンディング

そして『シン・エヴァ』では、テレビアニメ版の要素を残しつつもそれを凌駕するエンディングが生み出された。庵野が最終的にどのような物語を語ろうとしていたのかも明らかになる。冒頭こそ派手な戦闘シーンがあるが、その後かなりの時間、エヴァンゲリオンは出てこない。

シンジたち3人は年齢的には大人になっているが、ロボットのパイロットになった影響で体はティーンエージャーのままだ。彼らは生き残った人々が集まって暮らす村での生活になじもうとするが、心の傷を癒やすのも、普通の人間として生きるすべを身に付けるのも容易なことではない。言い換えれば、ここで彼らは成長し続けるために、前に進み続けるためにはどうしたらいいかを学ぶのだ。それこそまさに、ゲンドウにはできなかったことだった。

静かな暮らしは長くは続かず、シンジたちは戦いへと引き戻される。ロボットによるめくるめく戦闘シーンもたっぷり描かれる。だが、シンジがゲンドウや他の登場人物たちと最後に向き合う場面には、巨大ロボットは登場しない。

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