話題作『全裸監督』が黙して語らぬ、日本のミソジニー(女性憎悪)
<ポルノ先進国の日本が放ったネットフリックス最新作――20世紀のジェンダー観は「世界の青春物語」になり得るか>
できれば手放しで褒めたかった。『全裸監督』の感想を聞かれると、そう答えている。
ストリーミング配信サービス・ネットフリックスのオリジナルドラマのことだ。80年代に「ハメ撮りの帝王」と称されたAV監督・村西とおると、彼の監督作でデビューした黒木香を主人公に据えた作品である。
かつて婦人誌編集者として日本のポルノ業界に取材を重ねた筆者は、なじみ深い題材を扱った日本発の意欲作に、大いに期待を寄せていた。配信と同時にニューヨークの自宅で全8話を視聴し、はや2カ月がたつ。
数字の上では、非常に好調である。シーズン1の配信開始は今年8月8日、同16日には早くもシーズン2の制作が発表された。今まで国内で制作された同社オリジナル作品の中で最も多く見られたタイトルとなり、新規顧客獲得にも大きく寄与した。
現在190カ国以上で配信中、12言語吹き替え、28言語字幕に対応。香港・台湾・シンガポールおよび東南アジアの数カ国では、ランキングのトップ10に入る勢いだという。
しかし、商業的成功の裏で日本語圏では「炎上」も続く。虚実ない交ぜの確信犯的な物語構造に対して、高評価と同じかそれ以上に、制作過程のモラルを疑問視する声も大きい。ウケれば何でも許されるのか?
近年、日本のAV業界ではいわゆる出演強要問題が波紋を広げている。不十分な契約の下、望まぬ形で出演させられたポルノ作品がのちのちまで流通し続ける被害実態が多数報告され、極めて重大な人権侵害として業界の体質改善が求められている。米映画業界発の#MeToo(私も)ムーブメントを皮切りに、全世界で性暴力被害告発が相次ぐ最中でもある。
『全裸監督』のプロモーションは、そうした時流に真っ向から逆らった。「なんだか窮屈な時代だからこそ、人間のありのままをお楽しみいただきたい」。不謹慎は承知の上、と言わんばかりの宣伝文句に快哉を叫ぶ中高年もいたが、30代の筆者の感覚からすると、不当な搾取が横行した時代の性産業を美化しているようにも受け取れる。
実在の人物名の取り扱いも気に掛かる。村西とおるは現在もメディア取材に応じている一方で、黒木香は90年代に現役を完全に引退した。その後の消息や私生活を探る報道、出演作の再版といった動きがあるたびに、プライバシーおよび肖像権の侵害に当たると損害賠償請求を重ねている人物だ。両名はこのドラマの制作に関与しておらず、権利関係に関してネットフリックス側は黙秘を貫いている。
「黒木氏の同意や許諾を得ずに実名を利用したのか」「彼女の半生を蒸し返して娯楽消費すること自体が『忘れられる権利』の侵害だ」といった厳しい批判を、どう受け止めるのか。
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