ウクライナ「義勇兵」を各国がスルーする理由──「自国民の安全」だけか?

2022年3月7日(月)20時40分
六辻彰二

だからこそ、アメリカ政府は白人極右による「ドメスティック・テロリズム」を国家安全保障にとっての脅威と位置付けている。

こうした状況下、ウクライナで「義勇兵」として軍事訓練を受け、戦闘に参加した白人極右が母国に戻れば、ドメスティック・テロリズムのリスクは格段に高まりかねない。それは「シリア帰り」の元ISが各地でテロ活動に走ったことを想起させる。

そのため、ロシアによる侵攻の前から、欧米各国の政府はウクライナの外国人戦闘員に神経を尖らせてきた。今回の当事者の一角を占めるNATOも2017年の時点で、シリアとウクライナに共通する現象として外国人戦闘員を取り上げ、その安全保障上のリスクに関する調査・研究を行なってきた。

眼前の脅威、明日のリスク

ところが、ロシアによる侵攻が始まると欧米ではウクライナの極右や外国人戦闘員に関するネガティブな論評は影を潜めた。

ウクライナ侵攻をきっかけに、Facebook がアゾフを称賛する投稿を許容するようになったことは、こうした気運を象徴する。

当然といえば当然で、眼前の脅威に対抗するため、それ以外と一時休戦することは珍しくない。それはちょうど、それまで共産主義への警戒感の強かったアメリカが、日独伊の枢軸国との戦争が始まるや、「民主主義とファシズムの戦い」の旗印のもとにソ連を招き入れたことと同じだ。

とはいえ、第二次世界大戦以前、国際的に孤立していたソ連が大戦中に立場を強め、大戦後に成立したアメリカ主導の国連で常任理事国の座を得たように、どんな決着に至るかはともかく、ウクライナ侵攻が欧米でこれまでになく極右と外国人戦闘員の正当性と社会的認知を高める転機にもなり得る。

眼前の脅威としてのロシアと、明日のリスクとしての極右テロ。先進各国の政府は両方を視野に入れざるを得ないのであり、「義勇兵」スルーはその象徴といえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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