新疆における「強制不妊手術」疑惑の真相
新疆では漢族が多く住む地域とウイグル族が多く住む地域はかなりはっきり分かれていて、ウルムチ、カラマイ、ハミなどは漢族が多く、新疆生産建設兵団の本拠である石河子に至るや漢族が95%を占める。一方、カシュガル、ホータン、アクスなど南疆はウイグル族がほとんどである。
表3では、女性の人口に対して、その年に不妊手術を受けた人が何パーセントいたかを示している。2015年と2016年には不妊手術が割とまんべんなく行われていて、ウイグル族集住地域での手術割合が特に高いともいえない。しかし、2017年と2018年の女性に対する不妊手術はウイグル族集住地区にきわめて偏っており、2017年には不妊手術総数の95%がホータンで、2018年はホータンで85%、アクスで12%が行われた。
2018年にはホータンの全女性の6.1%に相当する人々が不妊手術を受けており、同年の出生率の急落も明らかにそのためであろう。いったいホータンで何が起こっているのだろうか!?
新疆では1981年に漢族に対して出産制限が始まり、88年からはウイグル族など少数民族に対しても実施されるようになった。ただ、少数民族に対する制限は相対的に緩く、農牧民は子供を働き手として期待する傾向があるし、子供は天の授かりものと見なすイスラム教の影響も強かったので、1990年代でもウイグル族家庭では子供が6人も8人もいることがざらであった(買買提明、司馬義、2015)。
新疆の人口政策では、都市部の漢族は子供1人まで、都市部の少数民族は2人まで、少数民族の農牧民は子供3人まで、さらに配偶者と離婚したり死別するなど特殊な状況がある場合にはもう1人子供をもうけることが許されている。ホータンの場合、人口の87%は3人子政策の対象である。
ただ、ウイグル族が集住するホータン、カシュガル、クズルスなど南疆では、子供が多くてなかなか貧困から抜け出せない状況にあることから、自治区政府は2005年から農村での出産制限を強める方策を打ち出した(王、2009)。
すなわち、3人子政策が適用されている農村の少数民族夫妻が子供を二人もうけたところでストップすれば「計画出生父母光栄証」が与えられ、子供を一人もうけたところでストップすれば「一人っ子父母光栄証」を貰える。ストップするとは、「長期的な出生抑制措置をとること」とされているが、これはすなわち不妊手術を意味しているとみられる。
この光栄証は単なる賞状ではない。その父母には生涯にわたって1人あたり年間600元の年金が支給されるのである。また、光栄証を貰った家庭の子供は新疆の大学に進学する際に合格最低点を下げてくれるなどの優遇がある。年間600元というと、日本円で1万円ぐらいで、大した金額ではないと思われるかもしれないが、新疆の物価は北京や上海よりずっと低いので、貧困家庭にとってこれはけっこう魅力的な金額であるはずである。