特別リポート:スタンガンは本当に安全か、米国で多数の死亡例
[オンタリオ(米カリフォルニア州)22日 ロイター] - 裏庭をうろうろと歩きながら椅子をひっくり返し、悪魔の名前を叫ぶ夫の声を聞いて、ナンシー・シュロックさんは彼が急速に崩壊しつつあるのが分かった。そこで、911に緊急通報した。
「彼を入院させないと。本当に、本当にひどい状態なの」。彼女は緊急通報先の担当者にそう説明した。それは、2012年6月のある木曜日、午後10時24分のことだった。
夫のトム・シュロックさん(57)は、35年間の結婚生活を通じ、うつ病や時に薬物問題に苦しんでいた。3年前に長男がヘロインの過剰摂取で死亡してからは、躁状態におけるトムさんの発作がひどくなり、警察は、ロサンゼルスの東に位置する農園風の自宅を12回以上訪れていた。これまでトムさんは、病院に搬送されて投薬を受け、72時間ほどで自宅に帰されることが常だった。
だが、この時は違った。
通報を受けた担当者は、トムさんのケースを「武装していない、精神的な問題を抱えた男が関わる騒ぎ」だと分類し、3人の警察官がやってきた。ナンシーさんが母屋を通って裏庭に3人を案内すると、ベテラン警察官のサンティアゴ・モタ氏は、「テーザー銃」と呼ばれるスタンガンを抜いた。それは一般的に、離れた位置から2本のワイヤーにつながれた電極針を対象にガス圧で発射し、電流で制圧するものだ。
警察官が家の裏口から庭に出てくるのを見たトムさんは、大股で近寄ってきた。腕は体の横にあり、拳を握っていた。警察官が止まるよう指示しても、トムさんは「出ていけ」とつぶやきながら、なお近づいた。
モタ氏が、テーザー銃を発射した。
トムさんは体をよじり、庭の奥に後ずさって行った。モタ氏が追いかけ、今後はトムさんの胸にあて再度発射した。
トムさんはその場に崩れ落ち、苦しそうにしていたが反応がなくなった。彼が意識を回復することはなかった。
「私は、救助を求めて電話したのに」と、ナンシーさんは言う。「彼を殺すために、呼んだのではない」
地元当局の検死官は、トムさんの死因について、「司法当局の介入」を受けた心停止により、脳への酸素が不足したことによる「複合的要因」だと結論付けた。また、第1の要因として、スタンガンの使用をあげた。
シュロック家は、地元警察とテーザー銃の製造元、テイザー・インターナショナルを提訴。スタンガンは本質的に危険なものであるのに対して、警察当局が、精神的な問題を抱えた人に使用するリスクについて、警察官への十分な訓練を怠ったとして、賠償を求めた。
地元自治体は、50万ドル(約5500万円)を家族に支払うことで和解した。スタンガンの製造元を相手取った訴訟は6月に棄却された。和解金が支払われたかは明らかになっていない。
全米で警察によるテーザー銃の使用が広まるなか、シュロックさんの事件のような展開は、ありふれた話になりつつある。それは、テーザー銃の使用により意図せぬ死者が出て、損害賠償請求が行われる、というものだ。
だが、精神症状のある患者が死亡し、複合的死因についての捜査が行われ、この銃使用の正当性について議論が交わされた今回のような事案は、より深い現実を反映している。
トム・シュロックさんの悲劇は、これまで全米でテーザー銃によって引き起こされた多数の死亡例の中の1つに過ぎないことが、ロイターが行った、同型スタンガン使用による死亡事故と訴訟についての過去に例のない調査によって明らかになった。
ロイターの調査によれば、警察がテーザー銃を使用した後で対象者が死亡する事故が全米で1005件起きていた。ほとんどが、2000年代の初頭以降に発生している。この調査は、同スタンガンを巡る死亡例調査では、これまでで最も網羅的なものだ。
死亡者の多くは、社会的弱者だ。4人に1人が、トムさんのように精神症状による錯乱状態にあったり、精神疾患を抱えていた。全体の9割が武器を所持していなかった。また、100件以上が、救急医療を求める911番通報から始まったものだった。
ロイターの調査で判明した死亡事故の多くでは、テーザー銃の使用状況を詳細に把握することは不可能だった。たが、裁判資料で比較的詳細な経緯が分かる400件超を分析したところ、4件に1件について、警察が使ったとされるのはテーザー銃のみだった。その他では、同スタンガン以外の強制力が行使されていた。
警察のテーザー銃使用による死亡例について、政府は統計を取っていない。公的な検死解剖が行われない州もある。また、検死官や医療検査官は、死因とスタンガンの影響を評価するのに様々な基準を使う。その結論も、詳細で厳密なものから、薄く不透明なものまで、表現に幅がある。
テーザー銃の製造元は長年、こうした死亡事故について、同社製品が原因ではなく、薬物使用や心臓の既往症、警察による他の武器使用などが原因だと主張してきた。
同社は、テーザー銃使用が原因となった死者は24人にとどまっているとしている。18人が、テーザー銃で撃たれて転倒し、首や頭を強打。6人が、銃の火花による出火が原因だという。テーザー銃による心臓や体への強力なショックが直接の原因となって死んだ人は、1人もいないと主張している。
だが、公的記録はそれとは異なる実態を示している。
ロイターは、1005件の死亡事故のうち、712件の検死記録を入手した。その5分の1以上にあたる153件で、テーザー銃が死因、もしくは死亡原因の1つだと記載されていた。その他の死亡例では、心臓や他の疾患、薬物使用など、さまざまな外傷が死因だとされていた。
折しも、警察官による殺害事件に対する抗議が相次いでいることを受けて、全米でより「安全」な制圧方法の導入が検討されている。テーザー銃による多数の死亡事故の存在が明らかになったことで、米国の警察当局は新たな問題に直面することになりそうだ。
このタイプのスタンガンは2000年代初め以降、火器の代替品としてほぼ全米で導入されており、「安全」な制圧手段の主流となると見込まれているからだ。全米の約1万8000の警察機関の約9割に、テーザー銃が導入されている。
ワイヤーで接続された2本の針を人体に向けて発射すると、電流が流れて神経と筋肉がマヒした状態になり、その間に警官が取り押さえることができる。体に直接押し当てて使うこともできるが、その場合は強い痛みがあるのみで、電流が流れる針は発射されない。
テーザー銃の製造会社は、このスタンガンがこれまでに現場で300万回以上で使用されたと推計している。同社では、自社製品の使用を巡る死亡事故の記録を取っているが、公表はしていない。
ロイターの調査で判明した1005件の死亡事例は、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが2016年末に公表した報告書よりも厳格な基準を使ったにもかかわらず、同報告書に記載された事例700件を44%上回っている。
ロイターの調査結果に対し、テーザー・インターナショナルのスティーブ・タットル広報担当副社長は、どのような武器にもリスクがあるとした上で、テーザー銃は「警察当局にとって、最も安全な武器の選択肢」と断言した。
タットル副社長は、ロイターが入手した検死報告書は、査読を経ていないため信用性が低いと主張。また、担当した検死官や病理学者が、漏れを避けるために、必要以上の死因を記載した可能性もあると指摘した。
1990年代にスタンガンの技術を開発したテーザー・インターナショナルは、4月に社名をアクソン・エンタープライズに変更した。業務内容が、警察用の携帯動画カメラやソフトウェアの開発まで広がったことを受けた社名変更だという。
<精神疾患とテーザー銃>
米国では、精神病患者向けの福祉サービスに対する政府支出が削減されたことを受け、精神疾患やノイロイーゼ、なんらかの発作を起こした患者などの対応をするため、警察官が呼ばれることがより頻繁になっている。
アメリカ精神医学会の調査によると、警察に対する緊急出動要請の100件に1件が、精神疾患の患者に関わるものだ。こうした現場では、警察官はスタンガンに頼ることが多いと、専門家は言う。
「警官は、現場で福祉ワーカーの仕事を背負わされている。一部では、言葉による説得はそこそこに、まずスタンガンを使っている実態があることを懸念している」と、ユタ州司法当局で法執行を担当したケン・ウォレンティン氏は言う。
一部の連邦裁判所は、テーザー銃の使用は相手が攻撃的な場合に限定するとの判断を示し、こうした基準が広がりつつある。司法問題のシンクタンク、ポリス・エグゼクティブ・リサーチ・フォーラムは、相手が「医療的や精神的な危機状態」にある場合は、テーザー銃使用を控えるよう提言している。
だが警察の使用基準には、大きな幅がある。
現場の警察官にとって、テーザー銃の使用を控えるべき基準の判断は極めて困難だと、警察官や法律家は指摘する。
相手の精神状態をその場で判断するのは、「警官の職務の中で最も困難なものの1つ」だと、ラスベガス都市圏警で警官訓練を担当するエリック・カールソン氏は言う。
トム・シュロックさんにテーザー銃を発射した警察官のサンティアゴ・モタ氏は、証言記録で、現場に到着した時点では、トムさんが精神疾患の問題を抱えていたことを知らなかったと述べた。
出動要請記録は、この件を、精神疾患に絡む強制確保の必要を意味する「5150ホールド」のカテゴリーに分類していた。モタ氏は、この分類に気付かなかったと証言した。
「現場に到着した時、5150というのは聞かなかった」と、モタ氏は言った。
トムさんは、テーザー銃で撃たれたあと、心室細動と呼ばれる脈拍が不規則になる症状を起こし、7日後に死亡した。検死官は、トムさんの心臓には20年前の覚せい剤使用で悪化したとみられるものも含め、多数の問題があったとした。
病院に技術スタッフとして勤務していたトムさんは、子どもたちが幼いころには頻繁にキャンプやハイキングに連れて行く優しい父親だったと、妻のナンシー・シュロックさんは語る。「彼は、私の最愛の人で、子どもの父親でもあった。私の人生はもう元には戻らない」
精神疾患など衰弱患者に対するテーザー銃使用に関する研究は、ほとんど行われていない。倫理上の制約が一因となっていると、スタンガンについて共同研究を行ったスタンフォード大学・刑事司法センターのジェナ・ニューシェラー氏は指摘する。
「精神疾患者や、薬物の影響下にある人、心臓疾患がある人や妊婦にたいして、実際どのような影響を与えるか分かっていない。彼らに実験してみるわけにもいかない」と、ニューシェラー氏は言う。
スタンフォード大の研究によれば、テーザー銃は、あるグループに対して使われるべきではないとしている。
約150件のテーザー銃の使用事例を分析したこの研究では、「薬物やアルコールの影響下になく、妊娠しておらず、精神疾患を患っていない健康な人に対して、認められた部位に5秒間ショックを与える」場合に限り、この銃の使用は安全だと結論付けている。
<「テーザー銃はやめて」>
マカダム・リー・メイソンさんが、テレサ・ダビドニスさんとその子供たちと一緒に住んでいたバーモント州の自宅からふらふらと出てきた時、その表情は茫然としていた。発作から回復しつつあるときは、いつもそんな様子だった。
だが2012年のある6月の午後、自宅を囲んだ州警察は、そうは受けとめなかった。
アーティストだった当時39歳のメイソンさんは、高校時代の自動車事故の後遺症で、精神疾患の症状や発作に悩まされていた。
その日の午後、メイソンさんはカウンセラーに自ら電話し、発作を起こし、怒りのあまり自分自身もしくは他の誰かを殺害してしまいそうだと告げた。これを受け、警察はこの日の午後、彼の自宅を訪ねた。その時は、ダビドニスさんが応対し、いつもの症状なので心配ないと説明していた。
その後の様子を確認をしようと警察が再び自宅を訪れたとき、ダビドニスさんは不在で、ドアを叩いても応答がなかった。警察は、メイソンさんが周囲の林に隠れているのではないかと考え、警戒態勢を取った。ダビドニスさんが用事をすませ帰宅したのは、その時だった。
警察官のデービッド・シャファー氏は、茫然とした様子で庭を横切るメイソンさんを発見。ライフル銃を低く構えて近づき、地面に伏せるようメイソンさんに指示した。
メイソンさんは手を上げ、草の上に座り込んだ。だが、顔を下にして伏せるよう指示するシャファー氏を無視して、再び立ち上がった。そして、「撃ってくれ」と言った。ダビドニスさんの目の前で、シャファー氏はライフルをテーザー銃に持ち替えた。
「私は、『テーザー銃はやめて。さっき発作を起こしたばかりで、死んでしまう』と叫んだ」と、ダビドニスさんは振り返る。「でも警官は発射し、針が彼の胸にささって、スローモーションみたいにふらふらと崩れ落ちた」
メイソンさんは心停止に陥り、死亡した。医療検査官は、死因について、「電撃武器の使用による突然心停止」だったとして、スタンガンの使用に原因があると結論付けた。
メイソンさんの母親、ロンダ・テイラーさんは、メイソンさん自身が風景画をペイントした小さな木箱に彼の遺灰を入れ、持ち歩いている。「警官が、精神疾患のある誰かをこんな風に殺すことで、その母親も殺すのだ」と語る。
息子の死後、テイラーさんは、アメリカ自由人権協会のロビー活動を支援し、州政府にテーザー銃の使用規制を導入するよう働きかけた。
バーモント州は2014年、警察がテーザー銃を使用できる状況を限定する州法を制定し、それを携帯する警察官の訓練基準も定めた。例えば、テーザー銃使用は、相手が「攻撃的な行動を取っている」場合に限定されている。
「説得する時間を取りたくないからといって、テーザー銃を使ってよいわけがない。子どもをこんな風に失う人が、他にいてほしくない」とテイラーさんは語り、涙を流した。
精神的な危機状態にある人への対応は困難を伴うため、「危機介入訓練(CIT)」を導入する警察署が増えている。テネシー州メンフィスで1988年に最初に導入されたCITは、スタンガンなどの強制力を使うのではなく、状況の沈静化へと導くことに重点を置いている。
だが、全米の警察機関1万8000のうち、CITを導入したのは3000程度にとどまるとみられている。
アリゾナ州フェニックスの警察では、2000年にCITを導入し、警官500人以上が訓練を受けた。また2015年以降、精神疾患のある人への接し方について8時間研修の受講を全警察官に義務付けている。テーザー銃の使用頻度は、2006年の330回から、2016年には158回に急減した。
テーザー銃の訓練を担当するビンス・ルイス巡査部長は、この銃の使用は「最後の手段」となりつつあると話す。「精神疾患に苦しむ人に対応する場合、最善の方法は時間をかけて話をすることだ」
<「誰かが殺そうとしている」>
精神的な危機状況にある人は、警官に直面すると、困惑し、恐怖を感じることが多い。警官が適切な訓練を受けていない場合は特に、あっという間に緊張が高まることがある、と国立精神衛生研究所のデニーズ・ジュリアノブルト氏は指摘する。
「そうなると、精神疾患を抱えた人が負傷したり、警官が負傷したりといった不幸な事故が起きる可能性が高まる」と、同氏は語る。
2015年4月のある晩、ラッキー・プーンジーさん(32)は、カリフォルニア州サンディエゴにある母親と養父の家から911番通報した。4日間眠れず、幻覚に襲われ始めていた。家族は、数日前の音楽フェスティバルで摂取した薬物が原因だと考えている。
この日、プーンジーさんは、息子の2歳の誕生日を祝うため、妻とともに母親の家を訪れていた。だが夜になって、妻と養父のグレグ・ケリーさんは、プーンジーさんを救急治療室に連れて行って、鎮静剤を打った方がいいと判断した。
午後10時13分に、プーンジーさんは911番通報した。「緊急事態だ。誰かが私たちを殺そうとしている」
ケリーさんが電話を取り上げ、「いま電話した者は、幻覚状態にある。病院に連れて行きたい」と語り、家に武器がないことも告げた。
警察官が到着した時、プーンジーさんは安心したように見えたという。警官は名乗った後、プーンジーさんに後ろを向いて手を上げるよう告げた。
プーンジーさんは指示に従いかけたものの、警官になぜかと理由を聞いた。警察官の1人がプーンジーさんの手に手錠をかけた。「待ってくれ。僕が警察を呼んだんだ。なぜ手を上げないといけないんだ」と、プーンジーさんが尋ねた。
すると、もう1人の警察官が、テーザー銃で彼を撃った。
「話しをしようともしなかった。ショックだった」と、ケリーさんはその時の状況を振り返った。
驚いたプーンジーさんは攻撃的になり、警察官と掴み合いになった。応援の警察官が到着し、プーンジーさんは警棒でなぐられ、手足を縛られて救急車に乗せられた、と家族は話す。
病院に向かう途中で、プーンジーさんの心臓が停止。その後、脳死と宣告され、家族の同意で生命維持装置が外されて、彼は死亡した。
警察側は、プーンジーさんはテーザー銃を使う前から攻撃的になり、彼を鎮静化させるために数回スタンガンを発射せざるを得なかったと主張する。
プーンジーさんの遺体からは、大麻と幻覚誘発剤の成分が検出された。地元の検死局は、「興奮剤由来の精神状態」において物理的な拘束を受けた後の心臓発作による「事故」だったと結論付けた。
プーンジーさんの遺族は、過剰なスタンガン使用などが死亡原因になったとして、 地元当局などを相手取り提訴した。当局側は責任を否定し、訴訟が継続している。
<怖がらないで>
警察官によるテーザー銃使用に絡んで発生した多くの死亡事故と同様に、プーンジーさんの死も、救助を求めた緊急通報が発端となった。法廷記録によると、こうした911通報の半分近くが家族からの通報だ。
2014年12月16日の夜、ジェームズ・ウィリアムズさん(43)は、ジョージア州ダグラスビルの自宅で、妻のアササさんに、風邪を引きそうだと告げた。ウィリアムズさんは、市販の風邪薬のほかに、ラム酒を紅茶に混ぜたものを飲んで、眠りについた。
午前4時頃、ウィリアムズさんは突然アササさんを起こし、胃が痛んで寒気がすると言った。室温は27度近くあったが、ウィリアムズさんはシーツを体に巻きつけると、てんかんの発作を起こした。
シンガー・ソングライターとして活動し、3人の息子の父親でもあるウィリアムズさんは、2カ月前にも発作を起こしていた。アササさんは、その時の医師の指示を思い出してウィリアムズさんを横向きに寝かせると、911番通報した。「夫が発作を起こした。助けて」
ウィリアムズさんは、14年の結婚生活でアササさんが一度も聞いたことがないような甲高い悲鳴を上げた。アササさんは、「ただの発作。怖がらないで」と声をかけた。
ウィリアムズさんは、部屋を抜け出すと、トイレの便座に頭を打ちつけ、シャツを脱ぎ捨てた。アササさんは18歳の長男バシールさんにもう一度911番通報をするよう頼んだ。「早く来るように言って」
救急救命士として30年の経験があるマイク・シュラー氏と同僚のマーク・ワードロー氏が到着したのは午前4時39分だった。アササさんは6歳と13歳の2人の息子を、ウィリアムズさんが入り込んだ2階の子供部屋から連れ出したところだった。
シュラー氏は、ウィリアムズさんが子ども用のベッドに頭から突っ込んで壁に激突し、額を切るところを目撃した。長男のバシールさんは、救命士が2人がかりで父親にタックルしたと証言する。
裁判書類によると、副保安官のケニー・ターナー氏が午前4時41分に到着した時、部屋にはウィリアムズさんとシュラー氏しかいなかったという。
ターナー氏の制服に付けたマイクが拾った録音によると、アササさんはこの時、「発作を起こしている」と説明していた。だがターナー氏は後に捜査官に、ウィリアムズさんが発作を起こしていたことは知らず、攻撃的だったため、テーザー銃を用意したと話した。
ターナー氏は、「止まれ、落ち着け」と叫んだ。ウィリアムズさんに手錠をかけようとしたが、ウィリアムズさんはベッドから立ち上がった。
ターナー氏は、「乱暴はやめろ。テーザー銃で撃つ」と告げ、発射した。ウィリアムズさんはベッドに倒れこんだが、再び起き上がった。
ターナー氏は、「動くな」と叫ぶと、再度発射した。ウィリアムズさんは、スタンガンのワイヤーが体にからまり、倒れこんで床に頭を打った。
「助けて。助けてくれ」と、ウィリアムズさんは言った。
ウィリアムズさんは起き上がろうとして、頭をベッドの手すりにぶつけたという。ターナー氏は再び引き金を引き、ウィリアムズさんを倒すと、手錠をかけた。救急救命士が足を縛り、鎮静剤を注射した。
ウィリアムズさんは意識を失い、その夜死亡した。
検死官は、「脳内出血」が原因の「自然死」だと判断した。
ウィリアムズさんの家族は昨年8月、郡の消防と警察当局、さらにテーザー・インターナショナルを訴えた。だがテーザー社は、てんかん発作を起こしやすい患者には使用を控えるよう警告していたとの書類を裁判に提出し、家族は同社に対する訴えを取り下げた。
郡の警察署には、多発性硬化症や筋委縮症、てんかんなどの神経や筋肉の症状があることが分かっている患者には、テーザー銃の使用を禁止する規定がある。
地区検察官は、「ウィリアムズさんは自然死だった」として、警察官が犯罪行為をはたらいた証拠はないとしている。
テーザー銃を発射したターナー氏は、事件発生に至る10年間で累計1202時間の研修を受けていたが、精神疾患を抱える人についての研修は1時間だけだった。CIT研修は受けていなかった。また、テーザー銃の使用については、13時間の訓練を受けていた。
裁判証言で、訓練の中でてんかんや発作の症状がある人へのテーザー銃使用について注意を受けたことがあったか尋ねられ、ターナー氏はこう答えている。「それはまったく覚えていない」
(Peter Eisler記者、Jason Szep記者、Tim Reid記者、Grant Smith記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
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