焦点:サウジ・イラン関係は悪化の一途たどる恐れ

2016年1月6日(水)13時56分

[リヤド 5日 ロイター] - サウジアラビアとイランが過去に国交を断絶したのは直近では1988年まで遡り、その後、1990年のサダム・フセインによるクウェート侵攻という形で中東地域のパワーバランスの変化をもたらした。

今回鮮明になったサウジとイランの対立劇が、当時よりも穏便な展開を経てやがて収まりがつくと考えるのは難しい。それどころか、両国の関係は今後悪化の一途をたどる恐れがある。

複数の外交筋によると、現在起きている危機の核心は、サウジがサルマン国王の即位以降、イランとその連携勢力に対して軍事力で立ち向かう姿勢を強めていることにある。国王はムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を腹心として選び、舞台裏での根回しを駆使した外交を放棄しようとしている。

サウジは昨年、イエメンでイランと同盟する軍事勢力が政権を握るのを防ぐため武力行使に踏み切り、シリアでもイランと手を組むアサド大統領に反抗する諸勢力の支援を強化した。サウジがシーア派の有力指導者ニムル師の死刑を執行したのは、主に国内政治情勢が理由とはいえ、イランとのあからさまな対決方針も一因になっている、というのが政治アナリストの分析だ。

こうした軍事介入は、サウジにとってはイランによる中東各地域への影響力行使が「野放し」にされているという不満が何年も積み重なった結果といえる。イランが各地のシーア派勢力を支持し、ペルシャ湾岸諸国の反政府グループに武器を密輸した、ともサウジは批判している。

サウジのジュベイル外相は4日ロイターに「われわれはイランが地域の安定を損い、わが国や同盟国の国民に危害を加えるのを看過せず、対抗していく」と語り、強硬姿勢を崩さない構えを示した。

シリアやイエメンでの軍事介入は、イランが欧米などとの核合意よって中東で積極的行動を取るための資金力や政治力を高めることへの警戒感の裏返しでもある。

<相互不信>

1960─70年代までは、サウジとイランは決して心から許せる間柄ではなかったものの、米国がソ連の中東への影響を抑える戦略における「2本柱」として連携する関係にあり、宗派上の争いも表面化しなかった。

しかしその後サウジは潤沢な石油収入を背景に、厳格なイスラム信仰を主張してシーア派を異端とみなすスンニ派「サラフィー主義」の守護者に任じ始めた。逆にイランは1979年の革命を経て、「ヴェラーヤテ・ファギーフ(法学者の統治)」という教義を採択し、同国の最高指導者がシーア派の頂点に君臨することになった。

こうした宗派上の路線の違いで相互不信が生まれ、地政学的に両雄相争う事態へとつながった。

またイランは、1980─88年の対イラク戦争の後、アラブ諸国内のシーア派勢力との結びつきを利用して新たな敵の侵攻に備えた拠点を築く「前進防衛」戦略を打ち出したが、サウジはこれを革命を扇動して地域の安定をかき乱す動きだと不安を抱くようになった。

そして1988年にテヘランのサウジ大使館が襲撃されると、イランとサウジは国交を断絶。サダム・フセインのクウェート侵攻への対応で一時的に敵対関係が棚上げされたが、2003年にフセイン政権が崩壊してイランがイラク国内で多数を占めるシーア派を利用して影響力を強めたため、双方がより公然と対立するようになった。

<対立がエスカレート>

足元では、両国の対立がエスカレートする余地がある。

カーネギー国際平和財団のシニアアソシエーツ、Karim Sadjadpour氏は「1979年以降、両国は中東各地域でずっとさまざまな代理戦争を闘ってきた。しかし直接対決は自制し、最終的に冷戦状態に落ち着かせることに合意している」としながらも、イランが今後、国交断絶したサウジやバーレーン国内のシーア派コミュニティに騒動を起こさせようとする可能性があるとの見方を示した。

サウジによるニムル師処刑後、同国やバーレーンのシーア派による抗議行動が再燃し、イラクではスンニ派の2カ所のモスクが爆破された。サウジ側はこれらをイランの使嗾(しそう)とみなすかもしれない。

一方サウジは同盟諸国にイランとの断交を促すとともに、イスラム協力機構(OIC)のような組織にサウジのテヘラン大使館襲撃事件で非難声明を出すよう圧力もかけている。場合によってはシリアの反政府勢力支援を強化することもあり得るだろう。

サウジ、イランそれぞれの政府内にいる強硬派でさえ、全面衝突は避けたいと考えている可能性が大きい。ただ、実際の出来事が関係者の戦略などあっさりと崩し去ってしまうことは今回の一連の動きで証明されている。

イランの革命防衛隊は、ニムル師が死刑を執行された後、近いうちにサウジ王家は「手厳しい復讐」を受けると警告した。

サウジの民間シンクタンク、ガルフ・リサーチ・センターの責任者、Abdulaziz al-Sager氏は「革命防衛隊はイラン政府の一部であり、彼らの脅しは深刻に受け止めるべきだ。なぜなら彼らはレバノンやシリア、イラク、イエメンの民兵組織を統括しており、対サウジの軍事行動に利用したとしても何ら驚かない」と話した。

(Angus McDowall記者)

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