焦点:米共和党がシリア難民に拒否反応、パリ攻撃で移民政策に波紋

2015年11月18日(水)18時41分

[ワシントン 17日 ロイター] - 13日に発生したパリ同時攻撃を受け、米国では移民や国家安全保障に関する議論が再燃している。議員らからは17日、シリア難民への監視強化を求める声も上がり、難民の受け入れ拒否は「攻撃的であり、米国の価値観に相反する行為」とするオバマ大統領への厳しい批判につながっている。

オバマ大統領は9月、今後1年間に少なくとも1万人のシリア難民を受け入れるよう指示しているが、下院の共和党議員らはこの計画に強く反発。民主党も、過激派組織「イスラム国」と関係のあるシリア難民がいる場合に備え、厳しい身辺調査が必要だと主張した。共和党のポール・ライアン下院議長もシリア難民1万人の受け入れの一時中止を主張した。

今回の問題は、「虐げられた移民を歓迎する」という米国のイメージに異を唱えるものだ。一部の議員からは、シリア難民全員の入国を禁止すべきとの主張や、キリスト教徒のシリア難民をイスラム教徒より優先して受け入れるべきとの主張も出ている。

これに対しオバマ大統領は、難民問題で点を稼ごうとする政治家を批判。時折怒りの表情をのぞかせながら「ヒステリー状態で、誇張されたリスクに基づいて判断を下そうとするなら、良い結果は生まれない」と述べ、「このような議論から来るレトリックこそ、ISIL(イスラム国)へ過激派を呼び込む最大の要因だ」と強調した。

大統領によると、難民は米国への入国申請前の1年半―2年間の身元調査をされた後、入国を許可されるという。

共和党のマケイン上院議員は、難民に対する慎重な監視を支持しつつ、宗教などによる差別には強く反発。「われわれは皆、等しく神の子だ。キリスト教徒だけ入国を許可するという前提には反対する」と述べた。

上院外交委員会の民主党トップのベン・カーディン議員は、政府はテロリストが難民支援プログラムを通じて米国に入国するのを阻止するよう、監視を最も厳しくすべきだと主張した。1年半―2年間という監視機関は、欧州よりも長い。

米国家安全保障会議(NSC)は、入国者の審査強化を引き続き検討するとしている。

ジョンソン国土安全保障長官を含むオバマ政権の幹部らは17日夜、下院議員435人全員を集めてパリ同時攻撃事件に関する機密扱いの会議を開いた。それでも、多くの共和党員の深刻な懸念は払しょくされていない。

「情報を得ることができない人々を入国させることは非常に心配だ」。共和党のマット・サーモン下院議員は話す。「きょうの会議を終えて、出席する前よりはるかに不安になった」

<入国をめぐる闘い>

2016年の米大統領選における共和党有力候補である不動産王ドナルド・トランプ氏は、不法移民1100万人を国外退去させる意向を表明。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は、一部シリア難民の受け入れを支持する一方、過激派を排除するため入国審査は十分に厳格化すべきだと強調した。

パリ同時攻撃を受け、少なくとも26人の州知事が、シリア難民の受け入れを拒否すると表明。その大半が共和党員で、難民の一部はイスラム国との関係があるためと説明した。一方、残りの多くの民主党知事らは受け入れを歓迎している。

米政府は声明で、17日に34人の州知事らと電話会議を行い、難民支援プログラムについて説明したと明らかにした。マクドノー大統領首席補佐官らは、難民は最も厳しい審査や身元調査を受けることになると説明し理解を求めたもようだ。

ケリー国務長官によると、2001年以降78万5000人の難民が入国を許可されたが、うち「テロ活動に関する危険性が見つかった」とされたのは12人だけだったという。

ただ国務長官はNBCに対し、難民の審査は効果的だが強化の必要はあり、今後おそらく「より長く時間を要するようになり、費用も増大する」との見方を示した。

ライアン下院議長は米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、オバマ大統領の難民対策への代替案を19日に下院へ提出すると表明。共和党議員の一部は、予算案にシリア難民の定住を阻止するための準備金を盛り込むよう働きかけている。シリア難民の審査に関しても、連邦捜査局(FBI)長官による身辺調査結果の承認など厳しい条件を付けることが提案されている。

(Patricia Zengerle記者、Megan Cassella記者 翻訳:田頭淳子 編集:加藤京子)

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