アングル:変わる北朝鮮、男性社会の裏側で「稼ぐ女性」

2015年5月26日(火)10時30分

[ソウル 25日 ロイター] - 軍事最優先で男性中心社会である北朝鮮。しかし、闇市場を基盤にした経済が形成されつつあるなか、実際に生計を立てているのは女性たちだ。

韓国の統一研究院の調査によれば、北朝鮮では家計所得の7割以上を女性が稼いでおり、その大半は近年拡大している闇市場での取引によるという。

専門家の話では、女性は北朝鮮の労働力人口1200万人の半数程度だが、男性の多くは報酬がほとんど支払われない国家の仕事、もしくは兵役に就いている。

「北朝鮮では、男性は社会主義の最前線で戦い、女性は生活のために戦っていると言われる」

こう話すのは、2012年に韓国に脱北したJungさん(26歳)。現在は首都ソウルで大学に通いながら、闇市場で生計を立てる母親を支援するため、定期的に北朝鮮に仕送りしている。母親は豚を飼育したり、トウモロコシで作った酒を売ったりするが、「国からの配給はなく、父親は無給でほぼ義務的な仕事に就いている」という。

北朝鮮の中央計画経済は、冷戦時に経済的にも軍事的にも支援を受けていたソ連の崩壊から回復していない。1990年代には壊滅的な飢きんに見舞われ、約80万─150万人が命を落とした。このころから、女性たちは家族を養うため、キノコや銅線のスクラップを売り始めた。

国家による配給が遠い昔の記憶となるなか、人々は生活のために非公式経済にますます参加するようになり、特に女性が不釣り合いなほど積極的な役割を担っている。

とはいえ、軍や政府などを支配するのは依然として男性であり、北朝鮮のエリート層にいる女性は金正恩第1書記の親類に限られている。

闇市場は厳密に言えば合法ではないものの、その中核には腐敗官僚もいるため、広く許容されている。

脱北者や専門家によれば、北朝鮮には約400の市場があり、一部では店を出す際に労働党の当局者に税金を支払わなければならないという。

<無力な夫>

こうした闇市場での収入は、大きな額ではないことがほとんどだ。

市民団体「北朝鮮人権市民連合」が2011─12年に脱北女性60人を調査したところ、闇市場での収入は1カ月に5万─15万ウォンであることが多かった。韓国の北朝鮮専門ネット新聞「デイリーNK」によると、ウォンのブラックマーケットでの「実勢レート」では約6─18ドル(約730─2200円)程度。一方、国家の仕事で得られる1カ月の給料は2000─6000ウォンで、恵山市で売られるコメ1キロの価格8490ウォンよりも少ないという。

脱北者の多くは北東部出身であり、都市部の市場参加者は地方に比べて稼ぎがはるかに多いとも考えられている。

北朝鮮は経済統計を公表しておらず、国民の多くは非公式な仕事に就いているため、ロイターは同国の雇用や所得に関するデータを独自に確認することはできない。

ソウルにいる女性脱北者たちによれば、北朝鮮では昨今、結婚相手として最も望ましい独身男性に、市場を監督する労働党幹部が入っているという。

自身も脱北者で、脱北女性1500人との結婚仲介業を営むKim Min-jungさんは「北朝鮮でいい暮らしを送りたいなら、市場で商売するか、そうした市場でモノを売る女性から賄賂や税を徴収する男性と結婚するか、もしくは国家の貿易会社で働くかだ」と語った。

北朝鮮の女性たちは、同国の男性が「一日中消えている明かり」のようだと不平を漏らすという。「家族のために金を稼ぐという意味で、北朝鮮男性がいかに役立たずかということを物語っている」とKimさんは話す。

経済力を手にした北朝鮮女性の間では、離婚を望む人も増えていると専門家は指摘する。大韓弁護士協会による103人の脱北者を対象にした最近の調査では、経済力のなさが離婚の主な理由だった。

近年、韓国への脱北者の大半は女性で占められている。男性と比べて、女性は仕事に縛られず、移動の自由度が高い。

女性による市場支配は、専業主婦を理想とする北朝鮮の家父長的文化にも変化をもたらしている。国営メディアが制度的な男女平等を促進する一方、北朝鮮は長い間、男性優位の社会だった。しかし、マネーがそれを変えつつある。

ソウルに拠点を置く「Center for Korean Women and Politics」の責任者で、脱北者に定期的にインタビューを行っているKim Eun-juさんは「北朝鮮の生活水準は国家ではなく、女性のビジネス能力やスキルに依存している。女性は市場経済を通して、国家の役割を果たしている」と指摘。「男性たちは今、市場で結婚相手も探している」と述べた。

前出の脱北者、大学生のJungさんは次のように語る。「北朝鮮の女性は独立心があり、強い。国家が国民を養えないので、もっと稼ぐようになるだろう」

(Ju-min Park記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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