焦点:為替・株頼みの消費「回復」、中間層の節約志向強く格差拡大
[東京 7日 ロイター] - 堅調な個人消費を強調する政府・日銀の景気判断とは裏腹に、本格回復の鍵を握る中間層の動きにはまだ力強さが戻っていない。株高に支えられ高額品を買い求める富裕層や円安の追い風を受ける訪日外国人のインバウンド消費とは対照的だ。
好きな買い物にはカネをかけ、他は節約するという「メリハリ消費」も強まり、格差は広がっている。流通各社は、中間層の消費刺激策に頭を悩ませている。
<根強い価格志向>
2017年3―5月期は過去最高益という小売り企業も少なくなかった決算発表。しかし、好業績を上げている企業トップからも、消費に対する強気な見方は聞かれない。
2018年2月期に31期連続の増収増益を狙うニトリホールディングス の似鳥昭雄会長兼CEO(最高経営責任者)は、足元の消費について「腰が折れたのではないかと思う」との見方を示した。20日締めのニトリHDの3―5月期の既存店売上高は、うるう年の翌年で1日営業日が少ないという要因はあったものの、前年同期比1.0%減となった。四半期ベースの既存店売上高が前年割れとなるのは15年3―5月期以来2年ぶり。
3―5月期の連結営業利益が4期連続で最高益更新となった良品計画 の松崎曉社長も「消費は回復基調にあるが力強さはない」と話す。無印良品の3―5月期の既存店売上高は5.0%増と伸びたが、春に行った値下げの効果が大きく寄与。価格の見直しは、下期も継続して行う方針だ。
4月に254品目の値下げを実施したイオン も、引き続き消費環境は厳しく、節約志向が強いとして、8月に大規模な値下げを行う方針を明らかにしている。
ファーストリテイリング が発表した6月国内ユニクロ事業の既存店売上高は4.1%増となった。感謝祭第2弾や暑い夏セールなどを実施したことで、客数が8.2%伸びたことが寄与した。ドイツ証券アナリストの風早隆弘氏は「販促強化が販売面での成果につながっている点を踏まえれば、消費者の価格志向の高まりを示す動きとして注視したい」と述べている。
<高額品消費を支える株高>
百貨店業界には、昨年秋以降の円安・株高が寄与し、インバウンド増加と富裕層による高額品消費という追い風が吹いている。高島屋 の3―5月期の連結営業利益は前年同期比5.1%増の80億円となった。免税売上高が同1.5倍に拡大したほか、富裕層消費の代表ともいえる外商も1.9%増となった。J.フロント リテイリング も3―5月期の営業利益は36.8%増と大きく伸びた。
三越伊勢丹ホールディングス では、基幹3店での100万円以上の宝飾・時計の販売個数の伸びが顕著になっているという。関係者は、株高などによりマインドが明るくなってきたことが、富裕層消費の背中を押していると話す。
ただ、株高・円安頼みの好転は、外部環境次第で一変してしまう。高島屋の村田善朗常務は、自社カード保有者のうち、年間100万円以上買い物をする顧客の消費額は4%増だったが、100万円未満の顧客は4%減と8ポイントの開きがあったと明かす。そのうえで「(ボリュームゾーンである)中間層の消費はまだまだ弱い」と指摘している。
高額消費が好調なのは、百貨店だけではない。 家電業界では、8万円強の炊飯器、5万円弱のドライヤー、約13万円の扇風機など「ちょい高家電」の売り上げが好調だという。
無印良品が1月31日に発売した「豆から挽けるコーヒーメーカー」は、1台3万2000円にもかかわらず、1万8000台を超える受注のヒット商品となった。従来のコーヒーメーカーに比べて高価格ではあるが、松崎社長は「価値を認めてもらえるもの、価格が価値に合っているものは支持してもらえる」と分析。ただ同時に、こうした消費が他に拡大していかないことに頭を悩ませている。
7日に発表された5月毎月勤労統計では、実質賃金は5カ月ぶりに増加したものの前年比0.1%増にとどまっており、横ばい圏での推移が続いている。実質国内総生産(GDP)の60%を占める消費の行方が景気を大きく左右するなか、節約志向を持ちながら、メリハリ消費を強める消費者にどのように対応していくか、小売り企業の長く、重い課題となっている。
(清水律子 編集:北松克朗)
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