焦点:日米首脳会談に気をもむ外為市場、「トランプ砲」発射なら円高も

2017年2月9日(木)19時15分

[東京 9日 ロイター] - 日米首脳会談をめぐる外為市場の見方は、会談後の円安予想と円高予想に二分されている。日米同盟の強さが強調され、円安に戻るとの声がやや優勢だが、不規則発言を連発するトランプ大統領に注目する参加者は、円高予想に傾いている。通貨オプションでは「無難」な結果を織り込んで円安に備える動きも見られる一方、はしごが外されることへの警戒感も根強い。

<オプション市場は円高予想が減少>

日米首脳会談を控え、今週の外為市場でドル/円は、111.50─112.50円の狭いレンジ取引となっている。しかし、通貨オプション市場をみると、「円安期待」がほのかに見え始めている。

ドル/円のリスク・リバーサル(RR)25%デルタは、ドル安・円高方向を示すドル・プット・オーバーの傾きが、足元では0.3%―0.4%に低下。トランプ米大統領の円安けん制発言直後に1.3%付近まで急拡大したが、7日ごろから傾き縮小の傾向が出始めている。

まだ、ドル・プット・オーバーの状態ではあるが、あおぞら銀行・市場商品部部長、諸我晃氏は「首脳会談の無難な結果を踏まえた(ドルの)アップサイドのリスクに備える動きだろう」と指摘する。

ドル高期待のシナリオはこうだ。日米首脳会談で、トランプ大統領は為替・通商面で具体的な注文・不快感を表明せず、日米同盟の強固さと友好関係を強調。首脳同士の信頼構築を前面に打ち出す──。

その見方を強めているのが、「ゴルフ外交」の演出。10日の首脳会談後、フロリダの大統領別荘に宿泊。翌日には近くのゴルフ場でプレーする。「友好ムードが醸成されれば、円売りが再開しそうだ」(国内金融機関)という。

日本側の「手みやげ」効果に注目する市場関係者の声もある。関係筋によると、日本政府が作成を進める「日米成長雇用イニシアチブ」には、米国内のインフラ投資で4500億ドル(約51兆円)の市場創出効果があり、70万人の雇用を生み出すと明記されるという。

「好評価されれば、対日の強硬姿勢が和らぐかもしれない」(同)というわけだ。今回の首脳会談で厳しい批判が出なければ「115円方向に戻す余地が生まれる」(邦銀)との思惑も出ている。

<トランプリスク重視派、円高予想>

一方で、円高への不安感も市場には根強くある。

7日発表の12月米貿易収支は、3カ月ぶりの赤字額縮小だったが、国別の貿易赤字額で日本がドイツを抜いて2位に浮上。1位の中国とともにトランプ大統領の批判の矢面に立つのではないか、との警戒感が市場でくすぶる。

トランプ大統領は、日本の自動車メーカーへの圧力を強めており、「数値目標など日本の受け入れ難い要求を突き付け、交渉が難航する間にも、ドル高/円安への口先介入を進めるという1990年代の自動車摩擦の際と同様の展開となる可能性も排除できない」と、JPモルガン・チェース銀行の為替調査部部長、棚瀬順哉氏は指摘する。

なかでも日銀の金融緩和政策が批判されれば「日銀は手足を縛られかねないとの思惑で円高になりそうだ」(別の国内金融機関)との見方は多い。イールド・カーブ・コントロールは世界の中銀でも前例を見ない取り組みであり、「やり過ぎと言われたら苦しい」(同)との声もある。

トランプ大統領から日本の政策に対する厳しい批判が出れば「ドルは110円割れもありえる」(りそな銀行の総合資金部クライアントマネージャー、武富龍太氏)という予想も出ている。

<無難通過でも残る「不透明感」>

また今回の会談が無風だったとしても、不透明感は払しょくされそうにない。トランプ大統領が不規則発言を繰り返してきただけに「常識的な外交を期待すると、はしごを外されかねない」(別の邦銀)との警戒感は根強いためだ。

さらに、みずほ証券・チーフ為替ストラテジスト、山本雅文氏は「日本があまり対米追従的な姿勢を取ると弱腰と捉えられ、安倍政権の支持率低下と円高圧力につながるリスクもある」と指摘している。

ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は、この先もトランプ大統領による口先介入などが予想され、「手放しで118円を目指すような展開は想定しにくい」と話している。

(平田紀之 編集:田巻一彦)

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