アングル:狭まる人民元防衛の選択肢、外貨準備の減少続く

2017年1月7日(土)08時26分

[シンガポール 5日 ロイター] - 中国政府が今週発表する12月末の外貨準備は、ロイター調査によると3兆ドルをかろうじて上回るものの、2011年2月以来の低水準になりそうだ。そこで投資家の間では、果たして中国当局が人民元の防衛を続けられるのかという点だけでなく、さらなる資金流出と通貨安の悪循環が始まる恐れも大きな不安の種になっている。

中国の外貨準備の規模自体はまだ大きい。とはいえ昨年8月に人民元切り下げを実施して以来、元急落局面に再三見舞われ、その都度当局が買い支えに動いて多額の外貨準備が取り崩されてきた。

当局は個人や企業の海外への資金持ち出しに締め付けを強めているが、外貨準備が目減りするスピードに対する懸念はくすぶり続けている。一部のアナリストは、国際通貨基金(IMF)の適切な基準を満たすには、中国は外貨準備を最低でも2兆6000億─2兆8000億ドルに保つ必要があると試算する。

オックスフォード・エコノミクス(香港)のアジア経済責任者ルイス・クイス氏は「市場にはかなりの不安や憶測が渦巻いている。なぜなら中国ではこの問題について『政府は1ドル=7元、ないしは外貨準備3兆ドルの大台を守るつもりなのだろうか』という語り口が多いからだ」と述べた。

中国は今週、1ドル=7元近辺まで元安が進むとオンショアとオフショアの両市場で介入に乗り出し、中国を為替操作国に認定する意向を示唆しているドナルド・トランプ氏が20日に米大統領に就任するのを前に、元安を容認したくないと考えているとの観測が広がった。

しかし急速な外貨準備の減少と海外への資金流出が続けば、中国は再び一気に大きく人民元を切り下げるしか手がなくなるかもしれない、というストラテジストの声も聞かれる。

こうした切り下げは、他の新興国を巻き込んだ通貨安競争へとつながりかねない。

専門家の見立てでは、外貨準備を減らさずに元安のペースを和らげるために中国当局が頼りにするのは規制の厳格化だ。具体的には海外向け投融資や輸出代金の使い道への監視強化、あるいは既存の資本規制の抜け穴封じといったところになる。

ただ中国政府が元は一方的に下がるのだという市場に定着した見方を覆さない限り、ある規制の抜け穴を素早くふさいでもすぐ次の抜け穴が出現するといういたちごっこは続くだろう。

HSBCのアジア外為ストラテジスト、ジョーイ・チュー氏は「実際に外貨準備が十分にあるのかどうかは重要ではない。人々が外貨準備が足りないと考えれば、海外に資金を逃がそうとして、自己実現的なメカニズムが作用する」と指摘した。

チュー氏によると、中国としては本来通貨防衛には2兆ドルあれば事足りるはずだが、こうした市場心理のために当局は外貨準備を取り崩そうとするのは逆効果だと既に認識しており、だからこそ規制に活路を見出しているという。

例えば当局は、金融機関が報告すべき1回当たりの国内外の現金決済額の下限を20万元から5万元まで引き下げた。また個人の外貨購入は年間5万ドルの枠を維持しながらも、個々の取引に一段と目を光らせている。

上海証券のエコノミスト、ジェリー・フー氏は「以前なら資本規制は比較的緩く、外貨準備も潤沢だったので、当局は個人の外貨購入には目をつぶっていた。今は相場観を変えるために監視を強めている」と述べた。

またオックスフォード・エコノミクスのクイス氏は、中国規制当局が海外企業合併・買収(M&A)の審査を厳格化すると表明している以上、この分野でも何らかの措置が講じられる可能性があると予想。HSBCのチュー氏は、輸出業者の外貨収入をもっと元に転換するよう政府が促す事態になってもおかしくないとの見方を示した。

一方でチュー氏は、中国政府が新たな資本規制は導入せずに、既存の規制の実施をより厳しくすることに重点を置くとみている。それでも通貨安対策としては力不足で、元の下落は止まらないだろうという。

ステート・ストリート・グローバル・マーケッツのアジア太平洋マクロ戦略責任者ドワイフォー・エバンス氏は「中国当局が取り得る選択肢は乏しい。今より急速な元安を容認してしまうと、資金流出圧力を高めるだけになる。一度に大きく元を切り下げれば、過去1年半に2回も起きた市場の混乱を再燃させるリスクがある」と語った。

(Nichola Saminather記者)

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