任天堂が戦略転換、マリオでミッキーのライセンスビジネス成功に追随
スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」の驚くべき大ヒットで、任天堂は、スーパーマリオのような他の人気キャラクターをライセンス化することで、さらに利益を上げようと考えている。
そのお手本となるのは、ミッキーマウスやその仲間たちのライセンス商品によって毎年何十億ドルも売り上げている米ウォルト・ディズニーの戦略だ。
ディズニーのアニメ化されたキャラクター商品が、映画の興行収入よりも売り上げることの多い一方、スーパーマリオやポケモン、その他の任天堂のキャラクターたちは、苦戦するゲーム機ビジネス以外での活用に同社が積極的ではなかったため、日の目を見ない状況に置かれていた。
ポケモンGOの成功は、任天堂のキャラクターたちがゲーム機ビジネスの世界から飛び出し、ポケモンのように歩き回ることを予兆しているのかもしれない。そうなれば、19世紀の京都で花札を製造する会社として始まり、世界有数のコンピューターゲーム会社へと成長した任天堂が復活する可能性を秘めている。
ポケモンGOは米グーグル
任天堂の君島達己社長は、株主・投資家へのメッセージのなかで、「これまでビデオゲーム専用機に集中させてきた任天堂IP(知的財産)をさまざまな形で活用していく」と表明している。
それは宝の山が眠っているようなものかもしれない。
「任天堂の知的財産の価値はばく大で、3─5年かけて徐々に開放されると、われわれはみている」と、証券会社ジェフリーズのアナリスト、アトゥル・ゴヤル氏は25日のリサーチノートにこう記している。
玩具メーカー、タカラトミーの広報担当者は、ポケモンGO配信後、ポケモン関連のおもちゃに再び関心が高まっていると指摘する。
主に円高を背景として4─6月期に連結営業損失を計上した任天堂は、「ゼルダの伝説」を含む人気シリーズのキャラクターライセンス化を拡大する戦略を打ち出すとみられる。
玩具メーカーのある社員は、任天堂のライセンス事業担当者はごく少数で、限られた企業としか取引していなかったが、IPビジネス拡大を打ち出してから、それは変わりつつあると語る。
任天堂の代表取締役でスーパーマリオの生みの親である宮本茂氏は、同社のキャラクターをゲーム機以外に広げ、収益を創出するライセンス契約の対象とする意欲が高まっていると指摘している。
宮本氏は6月末に行われた定時株主総会で、「結果が出るには時間がかかるが、ご期待いただければと思う」と述べ、ユニバーサル・パークス・アンド・リゾーツと基本合意し、テーマパーク事業に任天堂のキャラクターを提供することも始めていることを明かした。
<落ち込む「Wii」>
据え置き型ゲーム機「Wii」のブームが4年前に陰りを見せ、その後継機「Wii U」販売も低迷するなか、任天堂は赤字に苦しみ、同社の手元資金は約50億ドルまで半分以上減った。
「Wii」は2006年後半の発売開始から「Wii U」が発売される前年の2011年末までに約1億台売れた。続く「Wii U」はわずか1300万台売れたにすぎない。ゲームの場がリビングルームからスマホへと移ると、任天堂の携帯型ゲーム機「3DS」の売り上げは従来機の3分の1にとどまった。
不調なゲーム機ビジネスに集中できなくなることを警戒した任天堂はこれまで、他のプラットフォーム向けゲーム製造や、もうかるライセンス事業などを遠ざけていた。
2015年度における同社のライセンス収入は約57億円で、売上高全体の1%程度にすぎなかった。ディズニーがミッキーマウスやトイ・ストーリー、くまのプーさん、最近ではスター・ウォーズなどで稼ぐ収入と比べたらほんの一部だ。
ミッキーマウスのティーポットやネクタイピン、本や雑誌、中国の英語学校まで含めた消費財でディズニーが前会計年度内に稼いだ売上高は計45億ドル。これは、同社売上全体の約9%に相当する。
ディズニーにとってライセンス事業は最も急成長している部門であり、2015年10月3日までの1年間で、営業利益は前年比29%増となっている。2010年公開の映画「トイ・ストーリー3」は、映画館やテレビ放映で17億ドルを売り上げたが、おもちゃや本、スマホアプリといったライセンス商品のそれは73億ドルに上る。
一部の投資家は、このようなレベルにまで任天堂が達するには困難が伴うとみている。
「IPで稼ぐことは、ゲーム販売とは全く異なる」と任天堂株を保有する国内資産運用会社に勤めるファンドマネジャーは指摘。9月に販売予定する腕時計型の周辺機器「ポケモンGOプラス」について、「ポケモンGOで遊んでいるのは実際には大人が多い。大人がポケモンGOプラスのような腕時計をするのだろうか」と疑問を呈した。
(山崎牧子記者、Tim Kelly記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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