ECBが追加緩和、一段の利下げ否定に「バズーカ不発」批判
[フランクフルト 10日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は10日、主要3金利の一斉引き下げや月額の資産買い入れ枠拡大を含む一連の追加緩和策を発表した。景気を支援するとともに、低インフレの定着回避を狙う。
ドラギECB総裁は理事会後の会見で「(低インフレの)二次的影響を回避することが極めて重要」と強調。包括的な追加緩和策を決定したのは、異例の低インフレが経済全般に波及するのを防ぐためと説明した。
市場は当初、事前予想を上回る大胆な金融緩和パッケージを素直に好感したが、ドラギ総裁が追加利下げの可能性は低いとの考えを示したことで流れが一変、ユーロは急反発した。予想を下回る追加緩和策で失望を誘った昨年12月と同様、ドラギ総裁は市場との対話に再び失敗したとの批判も上がった。
ECBは、主要政策金利のリファイナンス金利を予想外に0.05%から0.00%に引き下げた。上限金利の限界貸出金利も0.30%から0.25%に引き下げた。下限金利の中銀預金金利はマイナス0.30%から、市場予想通りマイナス0.40%に引き下げた。
資産買い入れ規模を月間600億ユーロから800億ユーロに拡大する。買い入れ額は、市場予想の700億ユーロを上回った。
ドラギ総裁は「金利は長期にわたり、また資産買い入れ期間の終了後も極めて低い水準にとどまる」と言明した。
資産買い入れの期限は2017年3月となっている。
また「本日の観点、およびわれわれの措置が成長やインフレにもたらす支援を勘案すると、一段の金利引き下げが必要になるとは思わない」とし、追加利下げの公算は小さいとの考えを示唆した。
これを受け、ユーロは対ドル
ドラギ総裁が追加利下げの可能性に否定的な見方を示したことに加え、日銀やスイス国立銀行(中銀)などが先行して導入している預金金利の階層構造の可能性を否定したことが嫌気された。
総裁は階層構造の導入については協議してきたが、制限なく金利のマイナス幅を拡大できると示唆したくなかったため、最終的には導入を見送ったと述べている。
JPモルガンのアナリスト、グレッグ・フゼシ氏は、銀行収益を守る手段として階層式の預金金利制度への支持を示すともに、一段の利下げ余地を残すべきだったと分析する。
ロレッサ・アドバイザリーのニコラス・スピロ氏は「口先介入能力の高さを自負するドラギ氏のような中銀当局者が、早期の追加利下げの可能性を否定するという間違いを犯すとは信じ難い」と述べ、「ドラギ氏のバズーカ不発」とした。
ECBはこれに加え、ユーロ圏内の金融機関以外の企業が発行する投資適格級ユーロ建て債券を買い入れ対象に加える。また新たに6月から期間4年の条件付き長期資金供給オペ(TLTRO2)を4回実施することも決めた。
TLTRO2の金利は、今回ゼロまで引き下げられた主要リファイナンシング・オペ(MRO)金利が適用される。だがより多くの融資を実施する銀行はさらに優遇し、最大で中銀預金金利と同水準まで金利を引き下げるとした。
同時公表したECBのスタッフ見通しでは2016、17年のインフレ・成長見通しをいずれも引き下げた。
2016年のユーロ圏インフレ率見通しは0.1%(昨年12月予想1.0%)、 17年は1.3%(同1.6%)。18年も1.6%と、目標の2%弱をなお下回ると見込む。
成長率見通しは、2016年が1.4%(12月予想1.7%)、17年が1.7%(同1.9%)、18年が1.8%とした。
ドラギ総裁はインフレ率が今後数カ月間、マイナス圏にとどまり、今年のより遅い段階から上向くとの見方を示した。
市場関係者の反応は分かれた。
ベレンバーグ銀行のホルガー・シュミディンク氏は「欧州に朗報だ。12月の政策は期待外れに終わったが、ECBはこれで事前予想を超える緩和政策を打ち出すといういつもの姿に戻った」と歓迎した。
一方、緩和的な金融政策により、バブル発生を招くとともに各国が経済改革を断行する動機付けを奪うといった批判も上がった。
ミュンヘン再保険のチーフエコノミスト、ミヒャエル・メンハルト氏は「世界経済情勢が再び急速に悪化して、強力な金融政策対応が必要となった場合、どうなるのか」と指摘。そうなれば「ECBは手持ちの弾の大半を使い尽くしているだろう」と話した。
こうした批判に対し、ドラギ総裁は、すべてにノーという政策戦略を取っていれば、破滅的なデフレを招いていただろうと反論した。
一方で、総裁は「銀行システムに何ら影響を及ぼすことなく、望むだけマイナス幅を拡大できるのか。答えは『ノー』だ」とも指摘。マイナス金利の限界を認識しているとし、今後は他の非標準的措置に注力することになるだろうと述べた。
*内容を追加して再送します。
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