焦点:米石油精製会社の株価、原油輸出解禁で堅調局面終了か

2015年12月17日(木)18時00分

[ニューヨーク 16日 ロイター] - 米国が長年続いた原油輸出規制を近く撤廃するとみられる中、米国の石油精製会社の株価は過去最高値近辺から大きく下げている。石油精製会社に今年、大きく投資した著名投資家ウォーレン・バフェット氏の判断が正しかったかどうかが問われている。

バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは今年、米石油精製会社フィリップス66の株式を20億ドルほど買い増し、保有高を2倍以上に引き上げた。

フィリップス66は米国の独立系精製会社としては最大手。ここ5年間は、値下がりした原油を仕入れて一部を精製して輸出する事業が好調だったこともあり、高い利益を確保していた。石油精製製品の輸出は原油輸出規制には抵触しない。

バークシャーは第2・四半期にフィリップス66株を2220万株購入、第3・四半期にも351万株買い増し、保有高は6150万株となり、時価は50億ドルを超えた。バークシャーのポートフォリオではフィリップス66は保有高が5番目に高い銘柄になっている。

ところが今月に入りフィリップス66やPBFエナジー、テソロなど精製会社の株価は軒並み8─12%下落した。それまで、これらの銘柄は過去最高値近辺で推移していた。バークシャーはフィリップス66株のポジションで今月初めから6億3300万ドルを失う形になった。

一部のディーラーは石油精製会社株が軟調に転じた理由について、原油輸出解禁に向けた動きに関連していると考えている。原油輸出規制が撤廃されれば、国内のシェールオイル調達をめぐる競争が外国の買い手との間で激化し、精製会社のコストが上昇する可能性があるためだ。

米石油精製大手6社はこの5年間で600億ドルを稼ぎ出し、一部は最高益を達成していた。

アナリストらによると、多数の米石油精製会社がここ何年も享受してきた供給面での優位性は、既に市場の力によって剥落してしまっている。2016年の業績は、今年の水準に匹敵する公算は小さいものの、米国産原油の輸出が解禁されても大きな影響を受けることはないと予想されている。

実際、フィリップス66株は精製会社の中ではパフォーマンスが最高ではないが、年初来では依然として14%上昇している。バークシャーはコメント要請に返答しなかった。

ウッド・マッケンジーのアナリスト、アラン・ヘルダー氏は「原油輸出規制がどうなろうと、米石油精製会社が短期的に大きな影響を受けるとは考えていない」と述べた。

だが米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が9月に公表したリポートによると、原油輸出の解禁により長期的には米石油精製会社に多額のコストが発生し、石油生産会社に利益がもたらされる可能性がある。

EIAの推計では、原油輸出規制が撤廃された場合、精製会社の利益は2025年に規制が据え置かれた場合と比べて227億ドル減少する一方、生産会社の利益は300億ドル程度増える見通し。

2012年には米国産標準油種(WTI)先物は平均で北海ブレント先物よりも17.50ドル低い水準だった。これにより米石油精製会社は原油を安く仕入れる空前の機会を確保できた。米東海岸やメキシコ湾岸の精製業者はノースダコタ州から低価格の原油を仕入れる優位性を生かすため、鉄道輸送ターミナルを建設した。

現在はWTIと北海ブレントの価格差は1.50ドル未満に縮小したため、精製会社は米国産原油の仕入れを控えて外国からの輸入を余儀なくされる格好となっている。大半のアナリストは、こうした傾向が来年も、そして恐らくはそれ以降も続くと予想している。

米議会指導部は15日、風力・太陽光発電の発展を促すための税控除と引き換えに、原油輸出規制の撤廃を盛り込んだ歳出法案をとりまとめた。法案は18日にも採決される見通し。原油輸出の解禁自体には反対しているオバマ大統領は16日、法案に署名する意向を示した。

ウエルズ・ファーゴのアナリスト、ロジャー・リード氏は、原油輸出解禁をめぐる報道に株式市場は「過剰反応している」と指摘。米国産原油が北海ブレントよりも著しく低い価格で取引される局面が早期に再来するとは誰も予想していない、と主張した。

ここ1、2年は原油輸出規制が続けられた状況下でさえ、ノースダコタ州バッケン地区で稼働するパイプラインは増えたが、原油価格低迷を受けて生産の伸びが鈍化したのに伴い、WTIと北海ブレントの価格差は大きく縮小してきた。

WTI先物の3月限、4月限、5月限はいずれも15日、北海ブレント先物の価格をわずかながら上回った。WTIが北海ブレントよりも高くなったのは、2010年以降で初めて。

<東海岸における問題>

原油輸出の解禁に強く反対しているPBFエナジーやフィラデルフィア・エナジー・ソリューションズ、デルタ航空傘下のモンロー・エナジーなど米東海岸の精製会社は、WTIと北海ブレントの価格差縮小で最も大きく影響を受けている。ニュージャージー州ベイウェイにあるフィリップス66最大の精製所は、WTIが北海ブレントよりも大幅に安かった時期にバッケンで生産される原油を最も多く購入している企業の1社だった。

これらの精製会社はWTIと北海ブレントの価格差が大きかった際、原油をノースダコタ州のシェール層から自社の精製所へ鉄道で輸送していた。だか価格差の縮小に伴い、東海岸の精製会社は外国からの原油輸入に依存するようになった。

今月に入ってからこれまでの各社の株価は、PBFエナジーが14.7%安、ホーリーフロンティアが14%安、テソロが約12%安、フィリップス66が約11%安。ウエスタン・リファイニングは月初来では17%安、年初来でもマイナスになった。

年初来では、テソロとバレロ・エナジーはいずれも40%超の上昇、PBFエナジーは31%高となっている。

トムソン・ロイターのデータによると、米石油精製会社全体では2016年は前年比16.0%の減益になると予想されている。

(Jarrett Renshaw記者)

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