焦点:自動車産業揺るがす無人の自動運転車、IT企業との競争激化
[東京 28日 ロイター] - 自動車産業の将来を左右しかねない自動運転車をめぐる開発競争が熱を帯びてきた。トヨタ自動車など自動車各社はドライバーが自動運転を選択できる車の実用化を進めているが、グーグル
自動運転システムの実現には従来の車づくりを超えた事業対応も必要になり、新たな成長市場が自動車各社にとって浮沈をかけた戦場になる可能性がある。
<「走る楽しみ」へのこだわり>
東京五輪が開かれる2020年。トヨタとホンダは高速道路で、日産自動車は一般道でも自動運転できる車の発売を目指している。3社が念頭に置くのは、ドライバーが自動か手動か運転操作を選択できる車だ。事故や渋滞の減少、運転負担の軽減が期待される自動運転車だが、「20年時点はあくまで社会受容性、ルールを含めてドライバーがいるという前提だ」(トヨタの吉田守孝専務)。
道路交通に関する国際ルールを定めたジュネーブ条約や国内法では、ドライバーの不在を認めておらず、完全な自動運転車を実現するには条約や法律の改正が必要。日本政府は法整備などに向けて動き出しているが、自動車各社では無人運転車の普及にはまだ時間がかかるとみる向きが多い。
ドライバーが手動と自動を切り替えできる車は無人運転車よりも技術的に開発が難しく、安全面のリスクも高いとされる。それでも、トヨタBR高度知能化運転支援開発室の鯉渕健室長は「運転できない、運転したくないときは車がドライバーを助けるが、運転を楽しみたいときに楽しめない車は作らない」と言う。
調査会社IHSのシニアアナリスト、ジェフェリー・カールソン氏は「自動車会社が無人運転に一気に傾かない理由の1つは、(運転の楽しみを売ってきた)今のビジネスモデルと顧客について考えなければならないからだ」と指摘する。ある業界関係者も「産業のトップである自動車各社が、ドライバーありきのビジネスモデルで動いているサプライチェーンをそう急には崩せない」と話す。
<問われるビジネスモデル>
「自動運転分野では異業種からも参入があり、これまでの自動車業界のビジネスモデルさえ問われてくる」。小泉進次郎・前内閣府大臣政務官は1日、来年初めから開始する国家戦略特区での「ロボットタクシー(ロボタク)」実証実験の発表会見で日本の自動車業界に警鐘を鳴らした。
ロボタクはドライバーのいない自動運転タクシーで、20年の実用化が目標。日本政府はロボタクが過疎化・高齢化の進む地方の活性化や人口減少に伴う人手不足の解消につながるとして、地方創生や横断的な産業発展にも寄与するとみている。
無人の自動運転車が普及すれば、ユーザーの需要は公共交通手段としての汎用車か、富裕層向けの高級車かに二極化すると工業デザイナーの奥山清行氏は予想する。グーグルが開発した自動運転車の1つはレクサスのSUV(スポーツ多目的車)、ロボタクはトヨタのミニバンがベース車だが、同氏は自動車会社が今のままではIT企業にベース車を供給する「サプライヤーになるだろう」と警告する。
<トヨタも「無人運転」視野に>
トヨタはこれまで豊田章男社長らが「運転する楽しさ」を繰り返し強調してきたため、対極にある無人運転には消極的とみられていたが、技術開発を軽視してきたわけではなく、無人運転も当然、視野に入れている。同社の吉田専務は、特に運転が難しい人々のために「自動運転が積極的に(無人運転に)向かっていくことはある」と明言する。
無人運転の具体的な活用事例の1つとなるのが、カーシェアリングだ。三菱総合研究所の杉浦孝明主任研究員は、無人自動運転車は都市部で拡大が見込まれるカーシェアとの相性は良いと指摘。カーシェアは「車が自動で駅に戻ってこられるなど、不慣れな車を運転する場合の安全機能としても無人の自動運転は親和性が高い」という。
すでに独ダイムラー
しかし、無人運転車を広く普及させるには、車単体ではなく、安全な移動を保証するインフラも含めた新しい運行システムが必要であり、その開発については「グーグルが先行している」というのが、奥山デザイナーの見方だ。
自動車各社が新市場の覇権を握るには、IT業界など異業種からの進出企業をしのぐ技術力や事業展開力が求められる。車社会の新たなインフラとなる無人運転車への取り組みが、自動車各社に従来の車づくりからの脱却を迫る展開もありそうだ。
(白木真紀、田実直美)
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