ロイター企業調査:アベノミクス評価が失速、「後退・消失」7割超

2015年10月16日(金)07時31分

[東京 16日 ロイター] - 10月ロイター企業調査によると、アベノミクスの勢いに関して7割超の企業が「後退している」ないし「消失している」とみていることが明らかとなった。「新3本の矢」も含めて効果が不明との指摘が目立っている。景気停滞感が強まる中、日銀による追加緩和については、賛否が拮抗している。

この調査はロイター短観と同じ期間・対象企業で実施。資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に9月30日─10月9日に行った。回答社数は260社程度。

<アベノミクス評価失速、安保法案も不信招く>

「金融緩和が円安と株価上昇を生んでいるが、支えがなくなれば元の木阿弥。本質的な経済体質の強化にはつながっていない」(機械)──。アベノミクスは2年半たっても、実体経済には効果がなかったとの見方が広がっている。

安倍晋三首相自身は、新たに「新3本の矢」を打ち出して第2ステージへの移行を狙っているが「方針だけで成長政策に具体性がない」(その他製造)、「期待はずれ。斬新性も乏しく、元の3本の矢もうやむやになってしまった」(窯業)など、厳しい声が多い。

アベノミクスの勢いが「加速している」との評価はゼロ。「維持されている」との回答は27%だった。

一方で「後退している」が66%、「消失している」は6%となった。「後退」と「消失」を合わせると、72%に上る。

勢いが維持されていると評価する企業からは「勢いはなくなったが、これまでの底上げを評価」、「(アベノミクスの)成果は出ている」(不動産)との声が聞かれる。

ただ、「悪夢のような3年前を思えば十分(勢いは)維持されているとみるべきだが、残る打ち手が限られており、失速感は否めない」(卸売)との声もあがっており、条件付きの評価とも言えそうだ。

批判の背景の1つに安保法案をめぐる安倍政権の対応を挙げる声が少なくなかった。「安保関連法案を数の力で押し切ったのは政治不信を招く」(紙パルプ)、「安保法案審議の間に、アベノミクスに関する適切な情報発信が途絶えていた」(サービス)など、安倍首相の経済政策への姿勢に対する疑問が広がった。

また、円安の効果が出ず、かえって物価上昇による消費への悪影響や輸出停滞を招いているとの指摘も出ている。「実体験として景気回復はほとんど感じられず、以前より悪化している感が否めない」(金属)、「トリクルダウンが成立しないことは判明している」(輸送用機器)といった声があった。

<追加緩和期待高まり半数超に、株高効果の反面で円安の副作用も>

景気が停滞傾向を強めている中で、政府が何をすべきか聞いたところ、「規制緩和の加速」が最も多かった。次いで来年度に20%台まで引き下げる法人税減税の加速、設備投資減税が続いた。

金融政策への期待を聞いたところ、追加緩和を「すべき」との回答は53%。今年2月の調査では、「必要だと感じる」との回答は28%に過ぎなかったが、足元では半数を超えた。

その効果としては株高への期待が48%を占め、最も大きかった。追加緩和を行うことで株安による逆資産効果を避けるなど、国内消費の下支えを期待する声が目立つ。

他方で追加緩和は「すべきでない」も47%にのぼり、「すべき」とほぼ拮抗。「効果がない」との理由が60%と最も多く、「貿易構造の変化で円安が収支改善に効果がないことが実証された。グローバル化が進む中で、本当に正しい政策なのか」(機械)など、輸出産業からも円安の効果に疑問を示す声が聞かれる。

円安の悪影響を受けている企業もあるため「ツケの先延ばしのようなことは、百害あって一利なし」(紙・パルプ)との厳しい指摘も複数あがっている。

政府が経済の好循環実現に向け、政労使会議を設けて企業経営者に賃上げ要請を行ってきたことに対しては「政治の介入は好ましくない」と回答した企業が、全体の64%を占めた。「ある程度の介入は仕方がない」とみている企業は36%。

また、政府は今年、潤沢な企業の内部留保を設備投資に向けるよう要請するため、「官民対話」の場を設定したが、こちらは「好ましくない」との回答が52%。過半数を超えたものの、「ある程度の介入は仕方ない」の48%とそれほど大きな違いはなく、賃上げ要請に比べると抵抗感は少ない。

(中川泉 梶本哲史 編集:石田仁志)

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