焦点:独VW不正車リコール、米所有者が「妨害」も

2015年10月9日(金)17時23分

[サンフランシスコ 8日 ロイター] - 排ガス不正問題という自社最大のスキャンダルを引き起こした独フォルクスワーゲン。同社がどのような解決策を提示しようと、米国ではリコール(無償回収・修理)を強制できない州があり、対象車の一部所有者がリコールに応じない可能性もある。

米国では、VWのパサート、ゴルフ、ジェッタの2009─15年モデル約48万2000台が対象となる。修理されると性能や燃費が悪くなる可能性が高いため、一部の所有者は、たとえ車が法定基準を40倍上回る排気ガスを吐き出し続けようとも、リコールを拒否する可能性がある。リコールを強制できる手段もほとんどない。

米国で対象となるVWのディーゼル車が最も多かった3州のうち、一番多かったカリフォルニア州だけがリコールに応じない車の登録更新を認めていない。同州に続くテキサス州とフロリダ州では、そもそもディーゼル車の排ガス基準がない。

米環境保護局(EPA)によれば、車両登録に必要な排ガス検査を受ける前に、リコールに応じたという証明を大気浄化法によって求められているのは、全米でわずか17州だという。

EPAは、残りの33州で証明が必要ないかどうかについては確認できなかった。テキサス州の排ガス点検プログラムにはディーゼル車は含まれていない。一方、フロリダ州では現在、そのようなプログラムさえない。排ガス検査を受ける必要のない州が、ほかにどれくらいあるのかも不明だという。

EPAは、リコールは実施されるとしている。

<「大きなにんじん」が必要>

一方、「この車は最高」と語るのは、フロリダ州に住むパサートのディーゼル車の持ち主だ。プライバシー上の問題からトーマスとだけ名乗るこの男性は、「ただしそれは、車の性能によるところが大きい。性能を保つためにリコールを無視するか、リコールに応じて買った当時の性能を失うか選択する立場に置かれたことに困惑している」と話す。

全米自動車販売業者協会(NADA)の広報担当者、ジャレッド・アレン氏は、フロリダ州のような抜け穴のせいで、米国でのリコール完了率は70%程度にとどまっていると指摘。「消費者が対象車を乗り続けられることに関連した執行システムがない」と述べた。

ドイツ規制当局はリコール計画の提出期日を7日に設定。その翌日にはVW米国法人の最高経営責任者(CEO)が米下院公聴会で証言する。

VWファンのウェブサイト「VWVortex」では、リコールに応じさせるには顧客の前に「大きなにんじん」をぶら下げなくてはだめだと主張する所有者もいる。

例えば、ロイヤリティープログラムや下取り、金銭的なインセンティブなどがそうだ。VWは先週、販売業者に対し、下取りを希望する顧客1人当たりに2000ドル(約24万円)の「ロイヤリティーボーナス」を提供すると通知した。

その額が十分なのか疑わしいと、先に登場したフロリダ在住のトーマスさんはみている。「再販で受ける損失はそれよりもはるかに大きいだろう」

EPAはVWにリコールを命じる権限をもつ。だが、リコールに応じるよう顧客に強制できる権限には限りがある。

この件についてEPAは、リコールは必ずしも車の所有者に修理を求めるものではないと、ロイターに文書で回答。自動車メーカーは四半期ごとに、リコール回収率をまとめた報告書を同局に提出しなければならないとしている。

しかし、リコールに従わないことのリスクは明らかであり、「修理しなければ、連邦政府の排ガス基準を超えた有害物質が排出されるかもしれない」という。

カリフォルニア州の場合、リコールに応じなければ車両の登録更新は許可されない。更新は年に1回行われるため、所有者は最大1年間は修理しないで済む。

ロサンゼルス在住のデービッド・ロージングさんは「できるだけ長く待つつもりだ。ほかの人の車のバグがすべて修正され、カリフォルニア州の期日ぎりぎりに自分の車は『修理』してもらう」と語った。

しかし、テキサスやフロリダを含むほとんどの州ではそのような法律がなく、環境保護主義者からは不満の声が上がっている。

「テキサスとフロリダが(カリフォルニアと)同じことをせず、EPAも強制しないなら、ちょっと驚きだ」と、米自然資源防衛協議会(NRDC)エネルギー・輸送プログラムのディレクター、ローランド・ウォン氏は語った。

問題が安全性に関することではなく、排出ガスであることが、リコール回収率に影響している可能性がある。安全性に関わるリコールでさえ、強制ではないために多くの所有者が車をディーラーのもとへ修理に持ってこないという。

現在、リコール回収率を調査している米自動車工業会によると、2000─13年の安全性に関わるリコールの99%で、米道路交通安全局(NHTSA)は無条件の運転自粛勧告を出していなかった。

つまり、VWが金銭的なインセンティブなどで顧客をリコールに応じさせようとしない限り、規制当局は祈ることしかほとんど何もできないのが現状だ。

「規制当局は命令を下し、采配を振るうべきだ。さもなくば、VWが主導権を握っているように思える」と、非営利団体「生物多様性センター」の弁護士であるクリステン・モンセル氏は語った。

(原文:Alexandria Sage、Rory Carroll 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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