焦点:流通業が懸念する消費の先行き、所得増でも強まる節約志向

2015年10月9日(金)16時31分

[東京 9日 ロイター] - マクロ統計では堅調な個人消費に対し、流通の現場からは先行きを懸念する声が出始めた。流通業界の首脳から、消費の実態が決して強くないとの指摘が相次いでいる。

足元で実質所得は小幅増となっているものの、相対的に所得水準が低い非正規社員の割合が約4割まで上昇している構造変化や、食料品の値上げに対応した節約ムードが背景にありそうだ。政府部内でも、消費下支えのため低所得層への支援が不可欠との見方が広がっている。

<消費は足踏み>

「消費は足踏みの状況になっている。世界市場が不安定要素を多く抱えており、消費にとってプラスになるような与件がなかなか見られない。下期も上期のような足踏み状態が続くのではないか」―――。セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長は、消費増税から1年半経過した今、その当時に見えた消費盛り上がりの兆しが消えていると指摘する。

ファミリーマートは、251億円の上期(3―8月期)営業利益計画に対して283億円と上振れて着地した。だが、通期の見通しは据え置いている。

中山勇社長は「上期より下期の方が、経営環境のボラティリティが高くなっている。コンサバティブにみて下期の計画を立てている」と慎重な姿勢だ。

9月景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断DIが別れ目となる50を2カ月連続して下回り、消費マインドの悪化を印象付けた。「ここ数カ月、商品単価の上昇に伴い客1人当たりの平均買い上げ点数が前年を2─3%下回る状況」(北海道・スーパー)、「8月は秋物衣料の出だしがよくて期待していたが、9月に入ると動きが止まってしまっている」(南関東・百貨店)など、スーパー、百貨店ともにさえない動きが目立つ。

<節約志向の矛先>

だが、8月家計調査では全世帯の実質消費支出が前年比2.9%増と3カ月ぶりに増加。日銀の黒田東彦総裁は7日の会見で、マクロ的な需給バランスは労働面を中心に着実に改善し、所得から支出への前向きの循環メカニズムが作用していると強調した。

9月日銀短観によれば、非製造業の経常利益率は4.92%で過去最高水準にある。世界的な商品市況の下落や原油価格低下で、仕入れ価格判断が急速に低下しているが、販売価格判断はそれに比べるとさほど下がっていない。

そこから読み取れるのは、原材料コストが下がっても販売価格を据え置き、増益を実現している企業の姿だ。

強めのマクロ指標と弱めの流通現場からの声とのギャップは、どうして生じているのだろうか──。

一つの可能性として、消費者の節約志向がありそうだ。消費増税や円安、原料高の影響で値上がりした食品や日用品の購入額増加を、嗜好(しこう)品や衣料品の節約で対応したという見方が成り立つ。

オンワードホールディングスは、2015年3―8月期の連結営業利益をほぼ前年並みの24億円と予想していたが、実際は2億円にとどまった。90%の大幅下方修正だ。吉沢正明専務は「節約志向が強まっている。消費の先行きが依然として不透明な中、再増税も予定されており、キャリアを中心に婦人服が節約対象となっている」と話す。

<所得増でも消費が伸びない理由>

消費を支える所得の動きは悪くない。今年の賃上げ率は昨年を上回り、実質賃金も7月からプラスに転じ、物価上昇率を上回る所得増加が実現している。にもかかわらず、消費の伸びは鈍い。

子育て世帯や高齢世帯では、7月の実収入が今年初めより2%以上伸びている一方で、逆に消費支出の水準は減少している。「所得の伸びに比べて消費の伸びが鈍い」(内閣府幹部)との懸念は、政府内でも広がっている。

その背景に、賃金上昇の恩恵を十分に受ける世帯数が減少し、その波及効果が小さくなっているという、構造変化を挙げることができそうだ。厚生労働省によると、2014年の非正規社員の割合は雇用者数の37.4%と過去最高を記録。正規雇用者は減少が続いている。国税庁によると、正規社員の14年の平均年収は477万円だが、非正規は169万円にとどまっている。

2014年の「国民生活基礎調査」では、平均年間所得が415万円を下回る世帯は全体の6割に上り、「生活が苦しい」との回答率も10年前から7ポイント増えて5割を超えた。

電通総研・主任研究員の松本泰明氏は「もともと全体の6割程度を占めている節約型・メリハリ型の消費者層が、昨年4月の消費増税以降、物価高への対応として従来以上にそうした傾向をはっきりさせてきている」と分析している。

安倍晋三首相は「新3本の矢」で若い世帯向けの子育て支援、高齢者向けの社会保障支援を打ち出した。消費の活性化に結びつくのか、今後の動向に注目が集まりそうだ。

(中川泉 清水律子 編集:田巻一彦)

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