焦点:参院選へ「安全運転」の内閣改造、目玉政策乏しく市場無反応

2015年10月7日(水)20時57分

[東京 7日 ロイター] - 第3次安倍改造内閣が正式に発足した。19人の閣僚のうち麻生太郎副総理兼財務・金融担当相など主要閣僚を中心に9人を再任。「アベノミクス第2ステージ」の政策の柱を担う「1億総活躍相」には、官房副長官として政権を支えてきた加藤勝信氏が就く。来年夏の参院選に向け「安全運転」に気を配った結果、政権の骨格を維持した。

しかし、第2ステージの政策として打ち出した新「3本の矢」の具体策が乏しく、市場は無反応。目玉なき新たな船出に、政権浮揚は未知数だ。

<第2ステージの肉付け、新味なく>

安倍晋三首相は改造後の記者会見で「未来へ挑戦する内閣」と決意を語った。しかし、アベノミクス第2ステージの中核的な政策となる「1億総活躍社会」実現に向けて、年内に具体策の第1弾を策定し実行に移す方針を示すのみで、新味に欠けた。

<再配分に重点の新3本の矢、参院選にらみの声>

派閥を立ち上げて去就が注目された石破茂・地方創生担当相も、政府内に取り込んだ。昨年9月の内閣改造で目玉の女性閣僚として経済産業相に小渕優子氏、法相に松島みどり氏を起用したが、政治とカネの問題で改造直後に辞任する事態に追い込まれた。

今回の改造では、主要閣僚を留任させ「内閣改造は支持率低下になる」との永田町のジンクスを乗り越えようとしている。

アベノミクス2.0と言える「新3本の矢」を中心にした政策パッケージは、来年の参院選を意識していると多くの識者が指摘する。その点は首相側近も認めたうえで、第1次安倍政権では、格差問題への対応が後手に回り、失速した教訓を踏まえ「今回は早めに手を打っておきたい」という。

別の政府筋も「従来の矢に欠けていたのは、所得再分配政策。デフレから脱却させ経済のパイを拡大させたその果実を、低所得者に再分配する政策が欠けていた。それが新3本の矢につながった」と説明する。

<市場の関心低い内閣改造>

しかし、改造後の首相会見でも、「強い経済」「子育て支援」「社会保障」の新3本の矢の具体的な手順や政策は、提示されなかった。少子高齢化に直面し、人口減少による経済的デメリットが各方面から指摘される中、具体的な目標として「GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」を掲げるが、達成時期や実現への道筋、財源問題などは不透明なままだ。

7日の市場の関心は、もっぱら日銀金融政策決定会合での追加金融緩和に向けられ「結果発表前は緩和期待がくすぶり、政策維持がわかるといったん株売りが出た」(国内銀関係者)との声が多く、「内閣改造に目を向ける市場参加者はあまりいなかった」(同関係者)という。

ただ、補正予算編成や日銀の追加金融緩和への期待感は根強く「いずれ財政・金融政策のパッケージが出るとの期待感は持続している」(外資系証券関係者)との思惑も広がっている。

野田佳彦元首相(民主党)は、5日のブログで「安倍政権は『アベノミクス』という虚妄のスローガンで国民を幻惑し続けようとしている」と批判した。

野田氏はアベノミクスが目指してきた「経済の好循環」は、実現されていないとも指摘。安倍政権下(2012年第4四半期─2015年第2四半期)の実質GDP成長率は年率0.9%にすぎず、民主党政権期(09年第3四半期─12年第4四半期)の年率1.7%の半分しかないと反論し、新しい矢を放つ前に実績を検証すべきだと主張した。

<臨時国会見送りの公算>

足元の国内景気は、輸出・生産が減少傾向を見せ、個人消費も小幅増の基調にとどまっている。先行きも中国経済減速の長期化が懸念されるだけでなく、世界経済のエンジンとも言える米国経済にも拡大基調に不透明感が出てきており、政府内では「景気は厳しい」(政府筋)、「アベノミクスにとって正念場」(別の政府筋)など慎重な見方が増えている。

環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意を受けた国内対策を策定する必要性もあり、与党内では経済対策取りまとめの機運が高まっている。「一億総活躍社会」実現に向け、新設される国民会議で、年内に第一弾の対策を打ちだす。

臨時国会をめぐっては、政府・与党内に見送りの声が強まっているが、来年の通常国会冒頭での補正予算案処理に向け、経済対策についての本格的な議論が展開されるとみられている。安倍首相は対策に伴う補正予算編成について、会見では明言を避けた。

(吉川裕子 編集:田巻一彦 石田仁志)

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