アングル:アジア通貨に激震、当局は下落容認から防衛にシフト

2015年8月26日(水)18時36分

[シンガポール 26日 ロイター] - 輸出減少とデフレリスクに直面するなか、通貨価値の緩やかな下落は多くのアジア諸国にとって都合が良かった。

しかし、中国が8月11日に予想外の人民元切り下げを発表したことは、ボラティリティの波を引き起こし、アジア各国の為替管理だけでなく、その成長戦略まで混乱させている。

中国人民銀行(中銀)による約2%の元切り下げは、同国経済のもたつきをあらためて示す格好となり、アジアの通貨と株式は数年ぶり安値に下落。その流れは世界全体に広がった。中国経済をめぐる懸念はいまや、世界経済の成長をめぐる懸念やコモディティ価格の下落、米国の利上げ時期にまで影響を与えている。

1997─98年のアジア通貨危機で通貨切り下げに追い込まれた記憶がまだ残るアジアでは、資本逃避や市場の乱高下、借り入れコストの急上昇につながる通貨の急落によって、通貨を緩やかに下落させるという選択肢が突如として消えてしまった。

韓国やタイなどの中銀は、自国通貨に対する売り圧力を強めかねない利下げを先送りしており、経済成長や景気対策は後回しとなる可能性が高い。

インドネシア中銀も先週の政策会合で主要政策金利の据え置きを決定した。

同国の経済成長率は6年ぶりの低水準に減速し、インフレ率は鈍化しているにもかかわらず、中銀は、金融政策において通貨ルピアの安定を最優先すると表明。マルトワルドヨ総裁は今週、「われわれは競争的な通貨切り下げに追随しない」と述べた。

インドネシア中銀はルピア相場の安定に向け、積極的な介入を行っているほか、入札制度の変更を通じ、銀行の余剰短期資金を吸収し、ルピアの投機取引を防ぐ措置も講じている。

ルピアは年初来、対ドルで14%下落。外貨準備の低さや債券市場における外資比率の高さから、インドネシアの資産は特に売られやすくなっている。

しかし、インドやシンガポールなどの金融当局でさえ、市場が乱高下する状況で利下げを決定できる可能性は低い。

三菱UFJ(香港)の東アジア市場調査責任者クリフ・タン氏は「アジアの金融当局は当面、高い金利に耐える覚悟でいなければならない」と語る。

キャピタル・エコノミクスのアナリストは顧客向けノートで、マレーシアとインドネシアの当局は自国通貨が暴落する場合、利上げすら迫られる可能性があると指摘した。

シティバンクはすでに2015年のアジアの成長率見通しを6.1%から6%に引き下げた。理由として、中国の元切り下げに伴うボラティリティ、中国の景気減速、他国の政策対応を挙げた。

また、タイの成長率は3.5%から2.7%に引き下げた。

<歓迎されないボラティリティ>

タイ政府は経済成長率が予想を下回ると認め、景気対策として通貨バーツの下落を歓迎してきた。しかし中銀は8月の会合で、金融市場のボラティリティを理由に政策金利を据え置いた。

バーツは今週、対ドルで2009年以来の安値を記録。年初来下落率は8%に達しているが、その大半はここ数カ月の下げが占める。

オーストラリア・ニュージーランド(ANZ)銀行(シドニー)の金融市場調査グローバル責任者リチャード・イエットセンガ氏は「これは明らかに不快な動きだ。当局者は、これが歓迎すべき値下がりではなく、歓迎されないボラティリティであると認識してほしい」と語った。

韓国中銀は今週、ウォンが約4年ぶり安値を付けるなか、ドル売り介入を実施。円に対するウォンの競争力低下を受けて今年に入って続けてきたウォン安政策から一転、ウォン防衛に動いた。

中銀は元の切り下げ発表から2日後、政策金利の据え置きを決めている。

三菱UFJのタン氏は、アジアの中銀は政策をさらに協調させ、何兆ドルにも上る外貨準備を使うことで自国通貨防衛のため、より積極的な策を講じることができると指摘する。

(Vidya Ranganathan記者 翻訳:高橋恵梨子 編集:加藤京子)

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