アングル:中国・ASEANで日系現地法人の販売落ち込み

2015年8月14日(金)16時49分

[東京 14日 ロイター] - 中国経済の減速が意識される中、アジア地域での日本企業現地法人の売上減少や、日本からの輸出停滞が顕著となっている。日本からの直接投資も、昨年まで拡大していた東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で減少が目立ってきた。アジアの成長減速が、堅調だった設備投資への懸念を生み出しており、中国を起点にした景気減速の波が、投資経由でも押し寄せる可能性がある。

<減少に転じたアジア現地法人の売上高>

中国経済の減速は、日本企業のアジア現地法人を直撃している。世界各地の現地法人売上高のうち、その半分はアジアの現地法人が占める。しかし、今年に入ってその落ち込みが目立ってきた。

経済産業省の「海外現地法人調査」によれば、日本企業(製造業)の現地法人5000社のうち、中国での現地法人の今年1─3月期の売上実績は前年比7.3%減の561億ドルに落ち込んだ。

昨年10─12月期から減少に転じていたが、減少幅が拡大。自動車や電機、一般機械、化学と主要産業全般にわたって振るわない。

また、同調査でASEANとされているタイ、インドネシア、フィリピン、マレーシアにおける日本企業の現地法人の今年1─3月期の売上高は、前年同期比3.3%減の489億ドル。NIEs(新興工業経済地域)に含まれるシンガポール、台湾、韓国では、同5.9%減の139億ドルといずれも減少している。

この背景には、中国経済への依存度の高い国の景気が減速していることや、世界経済の先行き不透明を背景にした資源価格の下落、米利上げを見越した通貨と株の下落現象がある。

また、日本からの実質輸出(日本銀行発表)でみても、中国向けは今年に入り2四半期連続で前期比マイナス。4─6月は中国向けが前期比マイナス0.7%、NIEs向けが同マイナス3.0%、ASEAN向けが同マイナス12.0%とそろって減少している。

大企業400社を対象に4月以降の販売実績を聞いたロイター企業調査(6月)では、海外事業が計画を下ブレた企業は全体の23%。上振れ企業の9%を大きく上回った。中国や新興国、資源国の業績がさえないとのコメントが目立った。

JPモルガン証券・シニアエコノミスト・足立正道氏は、中国経済減速の波及効果について「新興アジア諸国を中心とした第三国への影響を踏まえれば、間接的な影響はさらに大きくなると考えられる」と指摘。

政府内でも「思いのほかASEANなどでの影響が大きくなっている」(経済官庁の関係者)として懸念の声も出始めている。

<直接投資も減少、国内設備投資に停滞感>

売上にとどまらず、直接投資も慎重化の兆しが出てきた。アジアの成長を取り込みや、人件費上昇が止まらない中国からのシフト先として、日本企業のASEANへの直接投資は、この数年でかなりの増加を遂げてきた。

日本貿易振興機構の「世界貿易投資報告」によると、2014年のASEAN向け直接投資は、中国向けの3倍に膨らんだ。特に電機や輸送機器、食料品、サービスなどのASEANシフトが鮮明となっている。

しかし、今年は1─5月のタイやインドネシア、ベトナムへの投資が、前年同期よりも減少。

中国への日本からの直接投資は、すでに12年をピークに急減してきた。中国商務部の資料では、12年に73億ドルまで膨らんだ日本企業の対中投資は、14年には43億ドルまで減少。今年も1─6月で20億ドルとなり、このままでは通年で昨年並みの低水準にとどまりそうだ。

直接投資が減少する中で、国内外の設備投資への影響も気がかりだ。日本政策投資銀行の調査では、15年度の海外設投資計画の伸びと国内投資計画の伸び率は、ともに増加計画にある。しかし、アジア経済減速は国内設備投資への影響も懸念され、海外需要の増加分を国内生産で補う必要性は薄れる可能性もある。

その国内投資の先行指標となる機械受注統計では、4─6月の国内受注は増加を維持しリーマンショック時の水準に近づいた。だが、外需が減少。7─9月見通しは製造業の反動減もありほぼ横ばいにとどまる慎重な計画となっている。

エコノミストの多くは「今後もアジアからの外需は伸び悩む可能性が高い」(バークレイズ証券)と指摘、外需動向には注意が必要だとみている。

BNPパリバ証券では「仮に中国経済の減速が止まらず、輸出の回復が一向に始まらないということになれば、先行きに対する不透明感が強まり、日本国内でも設備投資の実行を先送りする企業が増え始めるだろう。個人消費が低迷し、輸出が減少する中で、設備投資だけが好調だが、これが維持できるかどうかは、中国経済次第」とみている。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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