アングル:日銀短観想定為替レート実勢と開き、業績上振れ期待も

2015年4月13日(月)16時27分

[東京 13日 ロイター] - 今年度の想定為替レートをめぐり、企業経営者と市場参加者との見方に大きなギャップが生じている。日米金融政策の方向性などに注目する市場には円安バイアスがかかる一方、円高時の経営への打撃が記憶に焼き付いている経営者には110円が安心との声も少なくない。円安前提の市場では、日本企業の業績上積み期待が膨らんでいる。

<短観想定レートは111円>

1日発表の3月日銀短観によると、企業のドル/円想定為替レートは大企業・製造業1098社の平均が111.81円。調査の回答期限は2月25日から3月31日で、この間、ドルが118円前半から122円で推移していたことを踏まえると、企業の保守色がにじんだ結果となった。

日銀内では、米国の利上げ動向に不確実性がある中、ドルのボラティリティが上昇する可能性を警戒しているとの見方もあるようだ。

ただ、外為市場では、ドル/円が向こう1年で111円付近まで下落する可能性は高くないと見られている。利上げを検討する米国と量的、質的緩和(QQE)を継続する日本では金融政策の方向性が異なるほか、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を初めとする公的年金や本邦機関投資家の外国証券投資でドル買いニーズも強い。「今年1月中旬につけた115.85円が年初来安値になるのではないか」(邦銀)との声も聞かれる。

<自動車産業は115円前後との声も>

では、事業計画の前提となっている想定為替レートは実際にどの程度の水準なのか。2016年3月期の事業計画を策定するにあたり、自動車業界の主要企業の一部からは、ドル/円の前提レートを115円前後としているとの声も聞かれる。

「うちは115円で計画を立てているよ」──。中部地区にある大手自動車部品メーカーの首脳はこう明かす。「実勢が120円だからといって、想定も120円に置く事業会社はあまりない。大方は120円くらいでしばらく落ち着くのではないかと見ているが、いつ何時円高に戻るか分からない」として、やや保守的に設定したという。

日銀が13日に発表したさくらリポートでは、「為替変動リスクにより経営に大きな影響を受けた経験があるため、地産地消をすすめることにより、為替リスクの軽減を図りたい」(多くの支店、本店)との声も出ていたことが紹介された。

同首脳は「下手すれば100円という人はいるかもしれないが、それはあまりに臨場感を欠く水準だ。厳しめに見て110円とすれば、115円は実勢レートとの間のちょうど中間にあたる。特に円高方向に行くリスクがあるというわけではないが、水準感では妥当なところだろう」と話す。

すでに新年度をスタートさせている16年12月期決算の企業のうち、ブリヂストン、住友ゴム工業、横浜ゴム、ヤマハ発動機、アサヒグループホールディングス(HD)などは、期初段階で2015年の想定レートを115円と設定。サッポロHDは113円、キリンHD、旭硝子、キヤノンはそれぞれ120円としている。

<下方修正リスク回避の思惑も>

一方、大手邦銀の関係者は「社内レートを115円程度としているのは、為替にきびきび反応できる企業だけ。120円前半で足踏み状態が続いている中、多くの企業が様子見を決め込んで、115円よりも110円と出してくるケースが一般的ではないか」との見方を示す。

また、自動車業界からも「頭の中には110円以上はプラスアルファという価値観がある。115円というのはいい線だが、それは仮の数字で、本当は110円になっても採算がとれるようにと意識している」(大手自動車メーカー幹部)との声も漏れてくる。

企業にとって、公表した業績見通しは株主に対するコミットメントになるため、自らがコントロールできない国際情勢などで下方修正を余儀なくされる事態は避けたいとの思惑も働きやすい。

保守的に前提為替レートを設定し、厳しい予算で経営を成り立たせることを目指せば、突発的な為替の変動があっても吸収できる可能性がある。

日銀短観の調査結果は実勢レートよりかなり円高になっているが、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト、鈴木健吾氏は「市場はそこまでの円高は見込んでいないので、企業業績の上振れ予想につながりそう」と指摘。景気が停滞する可能性に対するバッファーのような印象だ、との見方を示している。

(杉山健太郎 :編集 田巻一彦)

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