インタビュー:TPPによる自由貿易促進に注目=フォンテラジャパン社長

2015年4月1日(水)13時56分

[東京 1日 ロイター] - 世界第4位の乳業会社であるニュージーランドのフォンテラの日本法人、フォンテラジャパンの斎藤康博社長はロイターのインタビューで、環太平洋連携協定(TPP)によって自由貿易体制への道筋が示されることに期待感を示した。

また、日本の酪農は補助金と関税に保護され過ぎて、世界の酪農、市場の変化に付いていけなかったと指摘。自立していく方針の下で、世界で需要が拡大する乳製品市場に乗り出せば、光明が見い出せるとの見解を示した。

前週、ニュージーランドのキー首相とグローサー貿易相が来日し、安倍晋三首相、甘利明TPP担当相とそれぞれ会談した。

その際、グローサー・甘利の両閣僚によるTPP交渉が行われたものの、関税撤廃で乳製品の輸出拡大を目指すニュージーランドと、重要品目として関税を守りたい日本との間にかなりの隔たりがあることがわかった。

ニュージーランド最大企業であり、世界の乳製品貿易量の約30%を扱うフォンテラの日本法人トップに、TPPの注目点や期待している分野、日本の酪農や農協についての考え方を聞いた。

主なやり取りは以下の通り。

──TPP交渉では、どのような点に注目しているか。  

「日本は、特にバターと脱脂粉乳の関税が高いので、これがどういう形でTPPの中で低減されていくかがポイント。全体的には、自由貿易体制をどう確保していくのかという道筋、ロードマップがどうなるのかということが一番の関心事」

「適地適産というか、生産するのに適した地域が農産物を作っていくことで、消費者、農家がウィン・ウィンの関係になる態勢を作っていくという面もTPPにはある。TPPは体制を変える力を持っているのではないか」

「TPPでどうなっても(大きな変化があっても)、日本が飲用牛乳をそのまま輸入するようなことにはならないだろう。バター、脱脂粉乳といった世界的に取引されている商品は柔軟に輸入し、牛乳を守っていく。国産も守り、輸入も増やしていく、マーケット全体として伸ばすというあり方が理想」

──関税は撤廃を目指すべきか。TPP妥結の落としどころとして望ましいのは、どういう形か。

「最大限の効果を求めるなら聖域なき関税撤廃、これが本来のTPPの主旨。ただ、日本と米国が(TPP交渉に)入ったことによって、そこは少し妥協して、柔軟に運営していくのではないか。インパクトを和らげながら、自由貿易体制を確立していくという方向」

「今まで守られてきた弱い農家、弱い産業に対する猶予期間はあるべきだろう。一律に即時関税撤廃というのは乱暴な論理だ」

──TPPによって地域の乳製品市場はどうなるか。フォンテラにとって、どのような意味があるか。

「本社の立場に立てば、自由貿易体制の枠組みが広がり、取引機会の拡大と取引増加につながるので非常に歓迎。一方、TPPには米、豪など乳製品の巨大輸出国も入っている。競争が激化する可能性も十分ある」

「フォンテラジャパンにとっては、本国から日本向けの供給を確保してくるという意味で、他のアジア諸国とやっと同じ土俵に立てるので、非常にポジティブなこと」

──日本の酪農について、どのようにみているか。

「戦後体制のなか、牛乳を国民に供給し、健康増進を図るという国家方針の下で増産し続けてきたことは、間違いではなかった。だが、世界の酪農、乳製品市場の潮流が大きく変わった過去20年くらいに、その流れに乗れなかった。そこに少子高齢化の波が来て、牛乳の生産が減少。深刻な後継者不足と離農という問題が出てきた。これが今の日本の酪農の問題点ではないか」

「自主努力なしに補助金と関税障壁で守るという農業の持続性については、非常に危うい部分がある。補助金で守られ過ぎた産業は衰退するというのは、世界的にみても歴史的にみても事実」

「ニュージーランドは、1980年代に酪農の補助金を全て撤廃した。英国の植民地だったから、乳製品を増産して英国に買ってもらっていたが、英国がEU(欧州連合)に加盟したことで補助金を撤廃、酪農は自由競争の中に放り出された。そこから、生き延びるためいかにコストを安く抑えられるかという戦いを続けてきた結果として今、生乳の生産量は日本の倍以上になった」

「世界的には、酪農は成長産業。牛乳生産は商売になると、いろいろな人が参入しているのに、日本だけは生産量が年々減っている。人口減少だけでは説明がつかない。これからは、個々の農家が産業として競争力をつけられるような農業にするという気持ちを持つことが大事」

「日本の農政の様々な矛盾が、酪農には集中している。一番最後に取り残された保護農政の象徴ではないか」

──フォンテラは酪農家が株主となっている協同組合組織で、日本の農協と似た側面もある。違いは何か。農協はどうあるべきか。

「フォンテラも農協だが、完璧に農家のためにのみ働いている。徹底的に効率性を追求し、生産性を上げて農家をいかに助けられるか、いかに競争力のあるものにするか、日夜研究している」

「日本の農協はサービスの提供機関、農業システムを運営するための組織になっている。金融サービスや餌の販売、スーパーまで運営している。フォンテラが金融事業をやろうとしたら、株主である農家が、本業でないことはするなと猛反対するだろう」

「酪農は、補助金なしでは生きられない産業になってしまった。農協もその枠組みの中に入ってしまっているというところが、われわれからみると理解できない。自分たちのやっている活動の大元に補助金があるということの意味をどう考えているのか。世界的に酪農・乳業が大きく転換している中で、これだけの保護をしているのは日本だけ。その正当性をどう考えるのか」

「農協が自分から補助金はいらない、われわれは自活して、これからの農業をやっていく、というくらいやらないと、産業としての酪農は続かないだろう。ブランド米で独立したコメ農家のように、農協の流通から外れて、飲用牛乳を作って独自のルートで売る農家も出てきている。TPPという外的要因ではなく、内部から大きな課題に直面している」

──日本の酪農はこれからどういう方向を目指すべきか。

「フォンテラは、北海道の酪農家とニュージーランドの農機具メーカーと組んで、放牧酪農の実践に取り組んでいる。現在は牧草の研究くらいだが、興味を持ってくれているのが若い農家、新規参入の人たち。放牧は工夫のしがいのある農業なので、努力して成果を出せるところが若い人の関心を集めているのではないか」

「放牧は餌代がほとんどいらない。日本は餌の99%を輸入に依存している。これは危うい生産体制ではないか。高い餌代は、日本の酪農の競争力をなくしている要因の1つ」

「ファミリーマートが、東南アジアで売り出したソフトクリームが大ヒットしている。現地にはないようなおいしさで、原料のソフトミックスは日本から持って行っている。アジアの人もおいしい乳製品に敏感になりつつある。原料に使う乳製品はニュージーランド、豪州から輸入し、おいしい日本製の牛乳を使った乳製品を輸出する、とういう方向に行けば、TPPも大きなメリットになるのではないか」

*インタビューは3月31日に行いました。

(宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

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