アングル:預金保険制度にくすぶる可変料率の議論、地銀への影響も

2015年3月27日(金)17時46分

[東京 27日 ロイター] - 預金保険機構は、金融機関が破たんに備えて積み立てる預金保険料の大幅な料率引き下げを決めた。金融機関の健全性に応じて料率を変える「可変料率」の導入は今後の検討課題となったが、欧米では導入の流れが加速している。地銀に与えるインパクトが大きいとの指摘もあり、今後、議論を呼びそうだ。

<さらなる料率引き下げに期待>

来年度の預金保険料率は、現行の0.084%から0.042%に半減される。1971年の制度発足以来、無条件の引き下げは初めてで、金融機関全体で2000億円程度の負担減になるとみられている。

負担が減る金融機関にとっては朗報だ。「金融システムは、かつてないほど安定している」(三国谷勝範・預金保険機構理事長)状態で、金融界からは「何年も金融機関の大きな破たんがない中で、保険料はもっと安く済むはずだ」(地銀幹部)との声もあり、保険料率のさらなる引き下げに対する期待も出ている。

<可変料率という「パンドラの箱」>

しかし、そうした期待とは裏腹に、金融界にはある警戒感も浮上している。それが「可変料率」導入の動きだ。

可変料率は、各金融機関の健全性に応じて、支払う保険料率を変える仕組み。健全性が高ければ、支払う保険料は少なくて済み、健全性が低ければ多く払わなくてはならない。

今年1月に公表され、今回の料率決定のベースになった預金保険料率に関する検討会の報告書では、可変料率について「特定の結論を得るための議論は行っていない」とされた。

一方で、27日に預金保険料率の変更と同時に示された「中長期的な預金保険料率に関する共通理解」では、「預金保険制度などをめぐる国際的な動向」などを踏まえ、保険料の積み立て状況を定期的に点検するとも明記された。

可変料率は米国などですでに導入されているほか、欧州連合(EU)も、預金保険指令で今年7月までに域内全域で導入するよう求めている。金融機関の一部は、米欧の流れが日本に波及することを懸念する。

<地銀にインパクト>

可変料率の導入で、厳しい立場になりそうなのが地方銀行だ。105行ある地方銀行は、健全性の基準となる自己資本比率の水準に大きな開きがある。課せられる料率も各行一様というわけにはいかない。

実際、横浜銀や静岡銀、千葉銀など海外拠点を有する国際統一基準行がある一方で、ほとんどは国内基準行。国際統一基準行と国内基準行では自己資本の算出方法にも違いがあり、可変料率の前提になる各行のリスクを量る尺度をどこに定めるかによっても、意見が割れる可能性がある。

他方、個々の金融機関の規模が小さく、影響度合いも小さいと見られているのが、信用金庫や信用組合、労働金庫などの協同組織金融機関。

協同組織金融機関は、預金保険機構とは別に各業態ごとに独自の相互扶助システムを持つ。それぞれの業態の中で自己資本の充実が図れるため、可変料率導入の際にはそのセーフティーネットが考慮されて、料率が低くなる可能性もある。

「健全性の度合いによって保険料率が変わるとなると、規模の拡大で健全性を確保するという動きにつながる。再編の後押しになるかもしれない」と指摘する金融機関関係者もいる。

健全性に差が生じている地方銀行にとって、可変料率導入は劇薬になりかねない。

(和田崇彦 編集:布施太郎)

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