退職金からの投資比率減少、アベノミクスによる株高に実感薄く

2015年3月27日(金)17時23分

[東京 27日 ロイター] - アベノミクスによって株高は進んだが、退職金で投資している人の比率はむしろ減少していることがわかった。日本株の上昇スピードが速く、ついていけなかったこともあるが、景気回復の実感が乏しく株価とのギャップを感じることも投資を手控えさせているようだ。

退職金を日々の生活費に回す動きが低所得者層で強まるなど、株高から受ける印象とは異なる厳しい状況を示している。

<投資比率は2割程度に低下>

フィデリティ投信が、60─65歳の退職金を受領した退職者8630人を対象に調査した。期間は今年1月19日から2月10日。男性92.1%、女性7.9%。退職前の年収分布は、500万円未満が18.8%、500─1000万円が60%、1000万円以上が21.2%となっている。

退職一時金の平均は1700万円強。受け取った退職金で投資をした人の比率は、この4年間で徐々に低下。2012年は33.3%だったが、13年に28.9%、14年は26.7%となった。15年に退職金を受け取った人は、調査段階で78人と少ないが、その比率は20.5%となっている。

リーマン・ショックの後遺症が色濃く残っていた2011年時点での調査では、評価損が出た人が68.1%に対し、評価益が出た人は17.6%と少なかった。だが、今回はアベノミクス相場によって、評価損16.7%に対し、評価益65.5%と大きく逆転。現在、保有している投資信託に対する期待収益率も10%以上とする回答が増えている。

しかし、退職金全額のうち、何割を投資に振り向けたかを聞いた質問では、その比率が1割との回答者は10.3%から10.5%、2割が17.9%から15.7%、3割が24.6%から23.9%と、ほとんど変わっていなかった。

また、評価益が出ている人の今後の投資姿勢は変わらなかったが、評価損を抱える人は、マイナスを増やさないために保有株を減らしたいという回答が8.8%から13.4%に増えた。

<株高と弱い実体経済のギャップ>

投資に慎重な理由の1つに、これまでの日本株の上昇スピードが速すぎた、という点がある。

日経平均は、2012年11月のいわゆるアベノミクス相場スタート時点から現在まで2.2倍、この半年でも約20%上昇している。アンケートによると、退職金を受け取ってから投資に踏み切るまでの期間は約半年。その間に株価が急騰していれば、これ以上は上がりにくいと投資に慎重になりやすい。

さらに株価が上昇するとみれば投資に踏み切りやすいが、株価ほどに実体経済が改善していないと退職者が感じていることも、投資を手控える要因になっている可能性がある。

実際、退職金を日々の生活費に使うという人は低所得者層を中心に多くなっている。退職前の年収が300万円未満の層について回答内容を精査すると、退職金の使用目的として「普段から日々の生活費として使う」とした人は、2011年の調査時点の46.0%から60.5%に大きく上昇している。「ローンや負債の返済」も13.0%から20.0%に増加。退職金を投資に回す余裕が乏しいことを示している。

また、定年退職者の中には、働きたくても働けない人も少なくないようだ。アンケートでは、退職後も働くことが必要だとの回答は、全体の47.4%に上った。だが、そのうちの4分の1は定職に就けていない。

本日発表された2月の完全失業率(季節調整値)は3.5%に低下。有効求人倍率(季節調整値)も1.15倍と約23年ぶりの高水準となったが、「(求人は)建設業など一部のセクターに集中している」(SMBC日興証券・日本担当シニアエコノミストの宮前耕也氏)との指摘もある。労働人口減少が進む中で、高齢者の雇用増加が求められているが、現実は厳しい。

<保有比率低く、株高の恩恵受けられず>

日本株の個人投資家の保有比率は、2013年度の株式分布状況調査で18.7%と6年ぶりに20%を割り込んだ。一方、外国人は30.8%と初めて3割を超えている。足元でも買いの主体は依然として海外投資家で、個人投資家は消極的な姿勢を崩していない。

NISA(少額投資非課税制度)も始まったが、日本証券業協会のまとめによると、昨年末に主要証券会社10社で約406万あった専用口座のうち、1年間で株や投資信託などの購入に使われたのは45.1%と半分以下だった。株高は進んだが、その資産効果を日本人が十分享受できていない状況だ。

今回の退職金アンケート結果をまとめたフィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史所長は、株高にもかかわらず投資に慎重な結果が出たことは意外だったと話す。そのうえで「個人を投資に向かわせるには、景気が良くなっていると実感できるようになることが必要だ。株価の上昇が信頼に足るものと思わせないとならない。いまはまだその信頼が足りないのだろう」と指摘している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

*写真を付けて再送します。

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