焦点:ECB量的緩和、金融システムの「紙幣印刷」機能を損なう面も

2015年3月19日(木)18時48分

[ロンドン 18日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は国債買い入れプログラムを通じて大量のマネーを供給しているのだろうが、この過程で金融システム自らの「紙幣印刷機能」もある程度損なっているのかもしれない。

ECBが1兆ユーロ規模の量的緩和(QE)を開始してから1週間あまり。金融市場ではECBが買い入れる債券が不足気味との声が漏れており、債券利回りや長期金利の低下を促している。ドイツ国債を中心にマイナス利回りとなっているケースもある。

ECB当局者は、債券の不足はQE計画の一部であり、経済に対して一段と有益な貸出や投資を後押しするためにリスクの低い債券の利回りを強制的に低下させていると主張する。

だが、金融市場のキャッシュフローを対象とする刺激策は、ゆがみももたらしている。

ドイチェ・アセット&ウェルス・マネジメントの調査部門責任者、フィル・プール氏は「ECBのQEは、少なくともわれわれの目には実体経済に大きな効果を及ぼすとは思えない。しかし、金融市場にはかなりの効果を及ぼしている」と指摘。「市場で明らかにゆがみが生じており、総じて言えば投資家はリターンを得るためにリスクが高い資産を購入するようになっている」と述べた。

一部の専門家はECBと見解を異にし、ドイツ国債を中心とする最高格付け債の不足感が高まっていることは、金融システムのマネー創造機能をめちゃめちゃにしていると話す。こうした最高格付け債を担保としてレポ市場でキャッシュの提供を保証しているためだ。

レポ市場は欧州だけで5兆5000億ユーロ程度の規模だが、その縮小に懸念が集まっている。世界的な金融危機以降、担保の再利用に制限が加えられていることなどが背景にある。

例えば、国際通貨基金(IMF)の推計によると、こうした形の担保再利用レートは危機後の4年間で約3倍から2.4倍に低下し、銀行による5兆ドルのキャッシュ創造が消滅したことと関連付けられている。

QEが最高格付けの担保を吸い上げることがこれと同様の効果をもたらし、銀行システムへの新規資金注入の効果を相殺するとの懸念が浮上している。ECBのQEは結果的に、レポ取引で額面の2倍超の資金調達が可能なドイツ国債などの減少によって、効果が薄まる可能性がある。

<為替効果>

JPモルガンのアナリストによると、ECBが先週にQEを開始したことを受け、期間2年から30年の国債4兆6000億ユーロのうち約4%が20ベーシスポイント(bp)超のマイナス利回りとなったとみられる。QEはECBへの出資比率(キャピタル・キー)に応じて実施されるため、ドイツ国債がこの中心となっている。

ECBは20bpを上回るマイナス利回りの債券買い入れができないことを考慮すれば需給のねじれは明白だ。

ゴールドマン・サックスのエコノミストは顧客に対し、「ECBの買い入れ対象となる債券のストックは価格変動の結果として縮小している」と指摘した。

この背景となっているのは、米連邦準備理事会(FRB)のQEプログラムとは異なり、ECBは買い入れ期間を通じて新発債の規模以上に国債を買い入れるという事実だ。バークレイズによると、全体的に差し引きで5600億ユーロの国債を投資家から取り上げることになり、その分市場規模も縮小するとみられている。

銀行や資産運用会社をこうしたマイナス利回り資産から外国債券を含むリスクの高い資産に追いやり、そのためにユーロ安を招いたことが主な効果とみなされるかもしれない。2014年央からユーロ/ドル相場は25%近く下落した。

ドイチェ・アセット&ウェルス・マネジメントのプール氏は「実体経済への基本的な影響は為替相場を通じたものだ」と指摘した。

(Mike Dolan記者 執筆協力:Nigel Stephenson 翻訳:川上健一 編集:加藤京子)

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