焦点:原油安と賃上げ交錯、「物価の基調」先行き不透明

2015年3月17日(火)21時53分

[東京 17日 ロイター] - 原油価格の下落に伴う消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の上昇率鈍化と具体化する前向きな賃上げの動きが交錯する中で、日銀が重視する期待インフレ率など「物価の基調」の先行きが見えづらくなっている。

黒田東彦総裁は、物価の基調は今後も改善していくと自信を示すが、実際の物価低迷が人々の心理に与える影響も無視できない。日銀の判断は難しい局面に入りつつある。

日銀は17日の金融政策決定会合後に公表した声明で、物価の先行きについて「エネルギー価格下落の影響から、当面ゼロ%程度で推移するとみられる」とした。従来は「当面プラス幅を縮小する」となっており、当面の物価上昇率が一時的にマイナスに落ち込むことも念頭に入れて、表現を修正したとみられる。

実際に黒田総裁はその後の会見で、先行きの物価は「エネルギー価格などの動向によっては、若干のマイナスとなる可能性は排除できない」と、マイナス転落の可能性に初めて言及した。

一方で、日銀が政策判断において重視している需給ギャップや中長期的な期待インフレ率などの「物価の基調」は、現段階で「変化する状況にはない」と強調した。

そのうえで今後も景気の回復基調や労働需給ひっ迫による需給ギャップの改善が続き、好調な企業収益を背景に昨年を上回るベースアップ(ベア)など賃上げが見込めると指摘。「物価の基調は改善していく。一時的な(物価の)動きでどうこうということはない」とも述べ、物価上昇率が一時的なマイナスとなったとしても、追加緩和は必要ないとの認識を示した。

しかし、原油価格下落の影響は、今後も電気料金の値下げという形で物価の押し下げ要因に作用し、少なくとも今年前半のコアCPIはゼロ%近辺での推移が続く可能性が大きい。

日銀では、期待インフレ率の上昇には実際の物価上昇率が高まる、いわゆる「バックワード・ルッキング」な期待形成も重要とみている。足元では、再び米WTI原油先物価格が1バレル40ドル台前半に下落。日銀が物価見通しの前提としているドバイ原油価格の想定も下振れしかねない。

一方、具体化しつつある賃上げの動きが、期待インフレ率の上昇や需給ギャップの改善に効果をあらわすには一定の時間がかかるとみられている。

黒田総裁は、2月27日に日本記者クラブで行った講演で、15年続いたデフレ均衡から脱出するためには「ロケットが強力な地球の引力圏から離れる時のように、大きな推進力が必要」と語った。

物価2%に向けて物価上昇というロケットに点火するまで期待が維持できるのか、正念場に差し掛かっている。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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