焦点:国際金融規制の信用リスク見直し、邦銀に資本充実の必要性も

2015年3月17日(火)18時27分

[東京 17日 ロイター] - 国際的な金融規制を決めるバーゼル銀行監督委員会(バーゼル委員会)が、銀行の貸出債権や政策保有株式など信用リスクに対する評価方法の抜本的な見直しに入り、邦銀の経営にも影響が出かねない情勢だ。

見直し案には信用リスクをより厳しく計算する方向が示されており、今後の株主還元策や買収など資本戦略に影響を与えることも予想される。

<すべての与信でリスクウエート引き上げ>

「しばらくは、大きな資本を使う戦略は打てないかもしれない」──。メガバンクのある役員は、バーゼル委員会による信用リスクの評価方法見直しについて、こう語った。

バーゼル委は昨年12月、銀行が保有する貸出資産などに対する信用リスクの評価方法のうち、もっとも簡単な「標準的手法」の見直しについて、市中協議文書を公表した。

これまで「標準的手法」を採用していた銀行は、リスクウエートを弾き出す際に格付け会社による外部格付けを利用していた。

しかし、バーゼル委は、リーマン危機で外部格付けが機能しなかったとし、新たな評価手法が必要と判断した。

新たに提示された市中協議案によると、事業法人向け貸出のリスクウエートは、外部格付けに応じて20―150%だったが、対象企業の売上高やレバレッジ比率に応じて60―300%に引き上げられた。プロジェクトファイナンスなども、従来の一律100%から新たに120%にまで高める案が出されている。

別のメガバンクの企画担当者は「すべての与信分野で、リスクウエートが引き上げられており、このまま導入されたら影響は甚大だ」と警戒する。

<リスク要因として残る持ち合い株式>

もっとも、バーゼル委が提示した市中協議文書がそのまま決まるわけではなく、見直しの具体案は、今後の協議に委ねられる。

しかも、バーゼル委は「今回の見直しは、銀行の自己資本の水準引き上げを目的としてものではない」と明記。現行の手法と新しく導入する手法とを比較した場合でも、全体としては新旧のリスクウエートは中立になるとの見解も示した。

とはいえ、邦銀が危機感を持っているのは「全体としては中立でも、各国の銀行のビジネスモデルの違いに応じて、より重いリスクウエートが課せられる可能性がある」(邦銀幹部)ためだ。

実際、世界の銀行と比べると、邦銀が際立っているのが政策保有株式のリスクだ。市中協議案では、株式のリスクウエートを従来の一律100%から上場株は300%、非上場株は400%に引き上げられた。

米国の銀行は、もともと政策保有株はない。邦銀と同じように、政策株を持つのがビジネスモデルとして確立していたドイツの銀行も削減を進め、今ではゼロ。

市中協議案に対して、共通の問題を抱える銀行は、世界で手を組んで異議申し立てする。しかし、政策保有株の面では手を組める相手がいない状態だ。邦銀幹部は「政策保有株のリスクウエートは、相当厳しい結果になるかもしれない」と懸念する。

<今年中に最終案>

バーゼル委は、今年中に見直しの最終案をまとめる方向だ。影響度が相対的に大きいとされる欧州の銀行などは反発を強めており、邦銀も全国銀行協会を通じて意見を発信していく。

昨年後半には、新たに設けられる銀行の健全性基準である「総損失吸収能力(TLAC)」の枠組みも決まり、邦銀の自己資本対策も一息付いた格好になった。

実際、昨年末以降、三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友トラスト・ホールディングスは規制の大枠が見えてきたとして、自社株買いなどの株主還元策に踏み切った。みずほフィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループも、成長に向けた事業買収に乗り出している。

しかし、「国際規制の動向は、一寸先は闇」(大手銀首脳)。「規制のメニューはおおよそ出そろったが、影響度はまだ計り知れない」(企画担当者)のが実情だ。

バーゼル委はリスクアセットの計測手法の他にも、自己資本の量や組み入れ可能な資本の種類も規定する。銀行の調達はそれに合わせる必要がある。三菱UFJは17日、1000億円の新たな債券発行を発表したが、これも規制対応の一環だ。

邦銀は引き続き、規制の影響度をにらみながら資本の使い道を考えるという難しい経営を迫られそうだ。

(布施太郎 編集:田巻一彦)

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