焦点:米国債市場の期待物価上昇率改善、早期利上げ促すかは不透明

2015年3月17日(火)09時51分

[ニューヨーク 16日 ロイター] - 米国債市場が示す期待物価上昇率は、数年来の低水準からは持ち直し、ディスインフレをめぐる懸念は和らいできた。ただ、依然として米連邦準備理事会(FRB)が目標とする2%は下回っている。

インフレ連動債(TIPS)と通常国債の利回り差、つまりブレークイーブンインフレ率(BEI)は16日現在で1.68%。2週間前には一時1.88%と、2010年8月以来の低水準だった今年1月の水準から37ベーシスポイント(bp)上昇した。

もっともBEIの改善によって、FRBのイエレン議長をはじめとする連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが早ければ6月の利上げに向けた準備を加速させるかどうかはまだわからない。

サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁のような一部の当局者は、TIPS市場についてインフレ期待の指標として重視しない姿勢を表明している。

<明るい材料>

物価上昇率が今後FRBの目標に達するとの見方を後押しする材料はほかにもある。

2月の失業率は5.5%と予想外に低下し、FRBが以前に利上げを検討する可能性があるとした想定レンジの上限にかかってきた。また各種民間調査では、消費者のインフレ期待はなおしっかりとアンカーされていることが分かっている。

バークレイズ(ニューヨーク)の米国債トレーディング責任者、クリス・マクレイノルズ氏は「米経済は非常に堅調に推移し、スラック(需給の緩み)は解消しつつある」と指摘した。

一方でFRBの利上げを見据えたドル高が進んでいる。これが17日からのFOMCで利上げまで「忍耐強くなれる」との文言を声明から削除して市場に動揺を与えることを、イエレン議長らに思いとどまらせるかもしれない。

主要6通貨に対するドル指数は先週、12年ぶりの高値をつけて原油が再び値下がりし、TIPS市場の利回りにとって下押し圧力になっている。

さらに13日に発表された米卸売物価指数は驚くほど低調で、当面は米経済がディスインフレ圧力に直面しているのだという事実をあらためて突きつけた。

ブラックロックでインフレ連動資産260億ドル相当の運用チームを率いるマーティン・ヘガーティ氏は「コア物価上昇率は今後数カ月は恐らく底ばいが続く。エネルギー価格下落とドル高の影響が時間差を伴って、コア部分の財やサービスに効き続けるからだ」と述べた。

FRBが物価指標として好んで用いるコア個人消費支出(PCE)価格指数は1月の前年比上昇率が1.3%と、12月と変わらなかった。

TIPSの連動対象の消費者物価指数(CPI)は1月に前月比0.1%低下と、09年以降で初めてマイナスに転落した。

米国において物価の下振れ傾向が止まったと宣言するのは時期尚早かもしれない。それでもTIPS市場からは、少なくともここしばらくは物価が安定してきていることがうかがえる。

ブラックロックのヘガーティ氏は「物価上昇率が連続して底をつける段階は過ぎ去ったと考えている。だから前月比では上向いていくだろう」とみている。

(Richard Leong記者)

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