ついにカネを使い始めた日本企業、海外投資家評価し株高要因に

2015年3月13日(金)18時08分

[東京 13日 ロイター] - 日本企業がついにカネを使い始めた。デフレ経済下では貯め込むばかりであった資金を株主還元だけでなく、賃上げやM&A(合併・買収)などに振り向けている。海外投資家も高く評価し、日本株上昇の要因の一つとして注目されている。ただ、賃上げは継続が重要であり、競争力が高い商品を開発し、生産性を上げていくことが欠かせない。

<M&Aや設備投資、賃金にも>

企業がまず、そのカネを使い始めたのが株主還元だ。野村証券・シニアストラテジストの西山賢吾氏の推計(2月23日付リポート)によると、2014年度は配当と自社株買いを合わせ12.7兆円、15年度も計14.2兆円になると予想され、過去最高を更新する見通し。ROE(株主資本利益率)向上を目指す動きが強まっている。

日本企業による海外企業の大型M&A(合併・買収)も増加し始めてきた。昨年の日本企業による海外M&A(IN・OUT)は約5.9兆円だが、日本郵政[IPO-JAPP.T]が豪物流大手を6000億円で買収提案するなど、これまで明らかになっている案件だけで早くも上回りそうな勢いだ。

低調だった設備投資への意欲も、徐々に高まり始めている。1―3月期法人企業景気予測調査では、企業の利益配分スタンスにおいて、大企業で設備投資が07年調査以来初めて1位となり、内部留保を超えた。中小企業でも、昨年3位だった設備投資が2位に浮上した。15年度の設備投資計画は3.9%減だったものの、例年、当初はマイナス予想となっており、マイナス幅は過去2年より小幅だ。

さらに出遅れていた賃金への配分も、ようやく増え始める兆しが見えてきた。3月18日に春闘の集中回答日を迎えるなか、トヨタ自動車の平均賃上げ率は3%を超えると報じられ株式市場でも好感された。2%程度の賃金上昇率が達成できれば、今年の物価上昇率が2%以下と見込まれ、消費再増税も見送られたことで、実質賃金がプラスに浮上する可能性が高まる。

<233兆円の使い道、海外勢も評価>

企業の現金・預金は14年7─9月期の日銀資金循環統計でみると、233兆円と過去最高。バブル崩壊やリーマンショックを経験する中で、日本企業は内部に資金を貯め込むことで、守りに入っていた。企業としては正しい選択だったともいえるが、「合成の誤謬(ごびゅう)」といわれるように、それが日本全体の活力を奪っていたとの指摘も多い。

アベノミクスの下で、企業収益が過去最高水準まで回復。政府の後押しもあり、ようやく日本企業も、その潤沢な資金を使おうという気になってきたようだ。

こうした日本企業の積極的な動きをみて、海外投資家の日本株に対する目も変わってきた。日経平均は13日の市場で一時300円高となり1万9300円台まで上昇、約15年ぶりの高水準をつけた。グローバルな金融緩和が背景ではあるものの「日本企業の姿勢変化も株高要因の一つ」(外資系証券エコノミスト)という。

クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部CIOジャパンの松本聡一郎氏は「キャッシュを貯め込んでばかりだった日本企業の思考パターンが変わってきた。そうであれば、海外投資家にとっても長く付き合える。輸出だけでなく、賃上げで経済の6割を占める国内消費が上向けば、日本経済に対する見方も大きく変わるだろう」と話す。 

<継続が重要、競争力の高い商品を生み出せるか>

ただ、一過性の動きとなってしまっては、この好循環も止まってしまう。ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「日本企業のうち本当の意味で競争力を向上させたのは、10%程度ではないか。残り90%は円安効果が大きい」とみている。

ある国内精密機器メーカーの財務担当者は、海外子会社への融資額が円安のために表面上、かさ上げされていると話す。評価益が出ているだけで収益力や競争力は改善していないという。「キャッシュが入っているわけではなく、税負担が重い」と漏らす。

円安による収益拡大を千載一遇のチャンスとして、日本企業が競争力の高い商品やサービスを作り上げなければ、生産性は低いままで、賃金だけでなく株主還元や設備投資の原資となるキャッシュの継続的な増加は望めない。

経済協力開発機構(OECD)の2013年のデータでは、日本の生産性のレベルは加盟34カ国中22番目。トップのルクセンブルグと比べ57%、米国と比べても63%の水準で、平均よりも13%も低い。

第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、経済が好循環に入るためには一過性ではない継続的な賃金上昇が必要と指摘。そのためには「いい商品を作って安売りせず生産性を上げていくことが、賃金上昇を継続させるために欠かせない。政策は環境を整えるだけ。バトンは民間に渡った」としている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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