焦点:対外情報機関創設へ議論本格化、日本版MI6が視野
[東京 9日 ロイター] - 安倍晋三政権が進める安全保障の体制整備の仕上げとして、対外情報機関の創設に向けた動きが本格化してきた。海外で情報活動をする英国の秘密情報部「MI6(エムアイシックス)」を念頭に、自民党が協議を開始。今年秋にも政府に対する提言をまとめる考えだ。
ただ、世論が受け入れるかどうか不透明なうえに、第2次世界大戦後、インテリジェンス活動から長く遠ざかってきた日本にとって、組織を整えたとしても実際に機能するまでにかなりの時間がかかるという課題もある。
<米国よりも英国モデル>
日本で情報収集・分析能力強化の必要性が叫ばれ始めたのは、2001年の米同時多発テロ後。自民党が検討チームを設置し、国家として情報の収集・保全・分析機能をいかに高めるかを議論した。
このうち、情報の保全は特定秘密保護法、分析は国家安全保障会議(NSC)として実現した。
さらに、集団的自衛権の行使を可能にする法制化も間近に迫り、「あと欠けているのは対外情報機関。普通の国になるためには必要だ」と、安全保障が専門の川上高司・拓殖大学教授は指摘する。「インテリジェンス機関が戦争を未然に防ぐのが、本来の安全保障。軍事力の使用は最後の手段だ」と語る。
自民党は特定秘密保護法の施行を控えた昨年秋、検討会の再開を決定。対外情報機関の設置を議論するため、今年2月に関係者が集まった。今後は有識者や専門家にヒヤリングするほか、夏ごろ海外を視察する考えだ。
「仮に秋に提言ができて政府内で検討が始まると、必要な法律を提出するのは来年の通常国会。もし組織を作ることになったら、今の情報コミュニティの中から陣容を作ることになるだろう」と、検討会の座長を務める岩屋毅衆院議員は語る。
大統領制の米国よりも、同じ議院内閣制を採用する英国のモデルが参考になりそうだという。NSCの準備過程でも、政府は英国の事例を研究した。
<省庁間の主導権争い>
問題になりそうなのが、省庁間の主導権争い。日本では、主に警察庁、公安調査庁、防衛省、外務省、内閣情報調査室に情報収集機能があり、約4400人が携わっているとされる。
このうち、国内で過激派やテロ組織を監視する公安調査庁が、新たな組織の中核を担うのが自然との見方が多い。
しかし、ある専門家は「安倍政権と官僚に影響力が強いのは警察」と指摘する。「新しい組織ができるとしたら、警察が主導権を握るかもしれない。外務省と公安調査庁が良い顔をしないだろう」と話す。
世論の反応も不透明だ。特定秘密保護法が成立した2013年12月、安倍政権の支持率は46、7%程度まで低下した。過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件で情報収集能力の不足が問題視されたものの、対外情報機関にはマイナスのイメージがつきまとう。「戦前の南満州鉄道調査部の復活か、なとど批判されかねない」と、関係者の1人は言う。
さらに戦後に対外情報機関がなかった日本にとって、語学堪能で現地に溶け込める人材を育成したり、情報機関同士の世界的なネットワークに食い込むことも難題となりそうだ。
「インテリジェンスのコミュニティというのは、第2次大戦前から世界中にある。日本はそこに新たに参入していくわけだから、信頼を築くのに時間がかかる」と、拓殖大学の川上教授は言う。「少なくとも30年は必要だろう」と、同教授は予測する。
(久保信博、リンダ・シーグ 編集:田巻一彦)
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