焦点:自民党がゆうちょ預金限度額引上げへ始動、金融庁は慎重

2015年3月3日(火)20時17分

[東京 3日 ロイター] - ゆうちょ銀行に預金する人の1人当たり預金額の上限を定めている「預け入れ限度額」を引き上げる議論が3日、自民党で本格的に始まった。限度額引き上げは昨年の総選挙で公約にも掲げており、郵政関連団体の支持を受ける同党にとっては悲願だ。ただ、総務省と共管する金融庁は慎重姿勢を崩していない。

日本郵政グループ[IPO.JAPP.T]の上場を見据えて、今後、自民党と金融庁の綱引きが始まりそうだ。

<引き上げ反対の意見は出ず>

3日午前、自民党本部で開かれた「郵政事業に関する特命委員会」(座長・細田博之幹事長代行)の初会合には、多数の国会議員が詰め掛け、予定の1時間を超過しても全員の意見表明には至らないほどの盛況ぶりだった。

出席した議員によると、預入限度額の上限を引き上げることに賛意を示す声が圧倒的で、反対意見は出なかったという。

ゆうちょ銀の預け入れ限度額は、現在1人当たり1000万円だ。政府が株を保有するゆうちょ銀行には「安心感」から自然と預金が集まりやすいため、政令で上限が定められている。

ただ、自民党内では、預入限度額を設けていることで、ゆうちょ銀の使い勝手が悪くなっているとの認識がある。特命委員会でも「上限1000万円で区切ると、他の金融機関がない地方の場合、たんす預金になってしまう」との意見も出た。実際、ゆうちょ銀を傘下に持つ日本郵政自身も「上限を設けているために、顧客に不便をかけている」(広報)として、限度額の引き上げを求めている。

もう1つが、上場のための成長戦略(エクイティ・ストーリー)になるとの観点だ。「預金量を増やすための手立てを設けなければ、成長の絵を描けない」と別の議員は言う。

<金融庁の論理>

「よくよく考える必要がある」――。限度額引き上げについて、金融庁のある幹部は、現行法のもとでは簡単にはできないと指摘する。

郵政グループが上場しても、政府による株の保有が続く以上、郵政民営化法に記された「他の金融機関との競争関係」は平等にならない。にもかかわらず、預け入れ限度額を引き上げれば、民間金融機関の競争条件が悪化してしまうという理屈だ。

さらに参院での2012年の付帯決議では、限度額引き上げが他の金融機関の経営を不当に圧迫しないか検証するよう求めている。限度額の変更は政令改正で可能だが、そのプロセスは単純ではない。

上限引き上げが、エクイティ・ストーリーになるとの観点では、「貢献するかは疑わしい」と別の金融庁幹部は疑問を投げかける。「ゆうちょ銀行にはただでさえ預金が潤沢に集まって、運用先に困るくらいなのに、これ以上預金が集まったら逆ざやになるのではないか」との懸念だ。

ゆうちょ銀行の貯金残高は2014年12月末で179兆円。1999年度末のピーク、約260兆円からすれば見劣りするが、近年は再び増加傾向に転じている。

<今年6月までに方向性との意見も>

9月以降の上場を目指す日本郵政は、6月にも東証にも目論見書を提出する段取りだ。自民党の中には「それまでに引き上げの方向性でも出しておく必要がある」(有力議員)との声もある。自民党の特命委は今後、月に2回程度ペースで関係省庁や関係各団体からのヒアリングを行う方針だ。

(和田崇彦 編集:布施太郎)

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