アングル:年前半の米成長に黄信号か、「産油国リスク」利上げに影響

2015年2月20日(金)19時19分

[東京 20日 ロイター] - エコノミストの間で、米国の今年前半の成長率を下方修正する動きが出始めている。原油安のなかで、産油国である米国内の設備投資停滞が低成長につながる「産油国リスク」に加え、個人消費も思ったほど強くならないといった懸念も浮上。利上げ開始時期の遅れやその後のペースに、不透明感が強まっている。

<好調な米経済の死角、設備投資の急減速指摘も>

18日に公表された議事要旨によると、1月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、低調に推移しているインフレ率をめぐる議論が行われたが、物価や賃金が上がりにくくなっている米経済への漠たる不安はFOMC内でもぬぐえていないもようだ。FOMCからの利上げ時期やペースについてのメッセージに対する市場の受け止め方も、強気・弱気様々だった。今年前半の米経済の見方に、下方リスクを指摘する声が増えている。

その一つが「産油国リスク」としての設備投資減速だ。エネルギー産業を中心に、設備投資への下押し圧力がはっきりとしてきた。商務省発表の米製造業の新規受注は12月まで5カ月連続減少、ISM製造業新規受注指数も1月に大幅に減少した。米国企業の景況感も、昨年秋以降、急低下している。家計部門とは対照的に、企業部門の悪化が目立っている。

2月の日本政府の月例経済報告でも、米国経済への評価を上方修正する一方、今後の原油価格下落の影響に留意が必要との指摘が加わった。

米国の産油量は日量1000万バレルと、ロシアとほぼ並び世界第3位の規模だ。

野村総合研究所・金融ITイノベーション研究部長の井上哲也氏の調べでは、ここ数年急激に伸びてきたシェール関連投資など固定資本投資はこの1、2年をとっても20%近い増加率で、製造業全体の投資に匹敵する規模となっている。雇用についても、雇用者数全体に占める鉱業のウエートはわずかとはえ、ここ数年、非農業部門の雇用者増加分の3分の1程度が、鉱業を中心とする6州の寄与で占められているという。

このエネルギー産業の設備投資の減速は米経済全体の下押し圧力となると指摘するのが、SMBC日興証券シニアエコノミストの丸山義正氏。15年第1・四半期の米経済は、1%成長まで減速するとみている。「シェール産業に依存度の高い地域では資本財需要の縮小や消費支出の減少なども同時に生じるため、米国経済全体にとっても無視できない悪影響となるだろう」とみている。

このため、15年前半は1.8%成長と、潜在成長率を下回るペースとなると予測している。

<個人消費も鈍化見通しが浮上>

2つ目が、個人消費が期待されているほど伸びない可能性だ。

JPモルガン証券は今年前半の米国成長率見通しを下方修正し2.75%としたが、設備投資に加えて個人消費もその主要因だ。同証券のシニアエコノミスト・足立正道氏は「所得や雇用が強い割に、12月の消費は伸び悩んだ。市場の期待インフレ率も弱い」とみている。

原油安が家計の消費を上押しすると期待されているだけに、消費の弱さが一時的な現象なのか、あるいは何か景気の弱さに起因するものなのか、原因は不明だという。

<コンセンサスは「慎重な利上げペース」>  

従来に比べて米国経済に対する見方がやや弱気に傾いているなかで、米連邦準備理事会(FRB)による利上げとその後のペースへの見方も変化しつつある。

井上氏は、利上げ開始時期は当初見通し通り年央に実施し、FRBとしては様子を見るだろうと予測しているが、「問題はその後の利上げペースにある」と指摘。「もし物価や賃金の上昇ペースが一層鈍れば、米FRB内部で利上げは不要と主張する勢力にとって好材料となる」とみている。

丸山氏も、原油価格の下落に伴う設備投資減速の影響を考慮に入れ、従来の毎回利上げから1回ずつ休みを入れての利上げペースに減速すると、見通しを修正したという。

ただ、マーケットとFRBウォッチャー、そしてFOMCメンバーとの間でも、米経済への見方も、利上げ開始時期もその後の具体的なペースも、認識はまだ共有されていないようだ。足立氏は「唯一コンセンサスとなっているのは、利上げペースは慎重にという部分だけ」と指摘、消費や設備投資の不透明感が強い中で利上げをめぐるリスクは後ずれ方向とみている。

(中川泉 編集:石田仁志)

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