アングル:社外役員選びに動く地銀、理想めぐり金融庁とすれ違い

2015年2月20日(金)16時16分

[東京 20日 ロイター] - 地方銀行が水面下で社外取締役探しに奔走している。東京証券取引所が複数の独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を上場規則とするのを前にした動きだ。しかし、その推進役である金融庁は、「理想」を掲げて人材探しに時間をかける地銀側にいら立ちを隠さない。

地銀どうしの役員融通も示唆する金融庁に反発する地銀もあり、両者のすれ違いが続いている。

<立ち遅れ目立つ地銀の対応>  

金融庁・東証は、昨年12月に複数の独立社外取締役の選任を柱に据えたコーポレートガバナンス・コードの原案を公表。東証の上場規則として6月から適用することが予定されている。しかし、現状では東証に上場する地銀79行のうち、7割にあたる56行は社外取締役がゼロないしは1人にとどまる。「親会社出身でないこと」「主要な取引先でないこと」といった、東証が定める独立性基準をクリアした独立社外取締役となると、採用はもっと進んでいない。

「そんなのは言い訳だ。社外取締役なら、隣の県(の地銀)から連れてくればいいではないか」――金融庁のある幹部は、社外取締役の選任が進んでいない地方銀行が人材難を理由に挙げることに不快感をあらわにした。

地銀ビジネスを手掛ける者どうし、しかも隣り合う県ならば「勝手」もわかり、役員経験者は豊富にいるはず、というのが同幹部の見方。適切な人材がいないから選任できないという地銀側の説明は、言い訳以外の何物でもないとの論理だ。

地銀側も手をこまねいているわけではない。ある地銀の幹部は、水面下で社外取締役選びに動いていることを認めたが、隣県の人材を採用すれば足りるという金融庁の論法には異議を唱える。社外取締役に迎えるには「信頼関係が大事」(同幹部)。別の地銀の関係者も「隣県の人にわれわれの地元のことがわかるだろうか。やはり地元で、人となりがよくわかった人を選びたい」と話す。

中には、一気に最高レベルの「ベスト・プラクティス」を目指す地銀もある。ある地銀幹部は「これからの銀行経営は、従来の銀行の発想ではだめだ」と述べ、銀行業以外から社外取締役を起用したいとする。同氏は女性の登用も視野に入れる。

また、一部の地銀は、米国の大手議決権行使アドバイザーISSによる議決権行使の助言方針を意識している。ISSは昨年11月に改定した方針で、2016年2月から取締役会に複数の社外取締役を選任していない企業の経営者への反対を推奨している。

<ガバナンス改革、問われる「本気度」>

コーポレートガバナンス・コードの上場規則化に伴って、企業にとって社外取締役の人数がガバナンス改革に向けた「本気度」を示す尺度の一つになりつつあり、地銀もその例外ではない。

コードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)というルールを採用し、社外取締役についても、規則が適用される6月までに選任できない場合にはその理由を明示する必要に迫られる。地銀側が危惧するのは、選任したいができないという説明で 金融庁が納得するか、株主や市場がネガティブに評価するのではないか、という点だ。

昨年夏、金融庁は各地銀にガバナンスの状況を調べるアンケートを行ったが、当時はガバナンスが機能しているかどうかに重点が置かれ、社外取締役の人数についての回答は特に問題視されなかったという。しかし今回は、社外取締役の採用が進まない場合に地方銀行がどう説明するか、金融庁幹部は注視すると話している。

「さすがにゼロというわけにはいかない。『エクスプレイン』のハードルは高い」。現在、社外取締役を1人も選任していないある地銀関係者の言葉は、迫ってくる「締め切り」への対応に戸惑う各地銀の現状を象徴しているとも言えそうだ。

(和田崇彦 編集:北松克朗)

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