標的はバルト3国、「ユーラシア主義」から見えるプーチンの次の一手

2022年3月1日(火)16時50分
グレン・カール

首都キエフのウクライナ兵(2月25日) GLEB GARANICH-REUTERS

さらにアメリカを含むNATO諸国への揺さぶり、アメリカとヨーロッパの離間、アメリカの世界的覇権の弱体化を図る秘密工作も続けるだろう。

ウクライナを蹂躙するロシアのミサイルと戦車は、ヨーロッパで冷戦が公然と復活した証拠だ。

数十年前、私はヨーロッパとロシアの将来について、あるロシア人と議論していたときに、ロシアは文化的に「ヨーロッパ」なのかと尋ねた。

当時のロシアは共産党支配から脱却した直後で、ようやくこれで個人主義、民主主義、自由市場、法の支配といった西側の規範を受け入れられる、と私はやや素朴に考えていた。

だが、その相手は言った。

「もちろん、私たちはヨーロッパ人だ。同時にアジア人でもある」

ロシアはロシアであり、欧米の規範とは相いれない。

プーチンは、欧米の個人主義を敵視する哲学の信奉者だ。専門家は、このロシア特有の反欧米的哲学を「ユーラシア主義」と呼ぶ。

ロシアの魂はユーラシア大陸の大草原とフン族やモンゴル族の武勇に由来するという思想であり、個人を国家の大義に従属させる点に特徴がある。ピョートル大帝の啓蒙主義や欧米の個人主義、さらには共産主義をも否定し、それらがロシアを破滅させたという立場を取る。

プーチンは「ユーラシア」ナショナリズムの熱烈な信奉者であり、欧米の規範を見下している。

2009年には、汎スラブ主義のナショナリスト=ファシストだった哲学者イワン・イリインの遺体をスイスの墓からロシアに移した。

イリインは、自由とは社会における自分の居場所を知ることであり、民主主義は単なる儀式であり、国家の指導者は英雄であり、事実には何の価値もないと主張した人物だった。1922年に共産主義革命後のロシアを追放され、1954年にスイスで客死した。

プーチンはその遺体を祖国に運び、新しい墓に花をささげた。

プーチンは、このイリイン流の世界観を公然と主張し続けている。

この観点からすれば、今回のウクライナ侵攻は国防措置であり、ユーラシア国家の定めを果たす行動だ。プーチンが権力の座にある限り、何を狙うのかは明らかだろう。

一貫して追求してきた戦略

欧米の国際問題専門家たちは、プーチンを場当たり主義者と見なし、一連の攻撃的な行動で得られる勝利は長続きしないと述べることが多い。

しかし、このような論者が見落としていることがある。それは、プーチンが1つの世界観に基づき、戦略上の目標を見据えて外交を行ってきたという事実だ。

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