今や保守主流派と一体化したオルト・ライト
だがオルト・ライト系の本を読む知識層は少なく、一般的にも読者は非常に限られているようだ。オルト・ライトの支持層は総じて教育水準が高くなく、読書家とも言えない。
オルト・ライト系の本は主流ではないので、そこにばかり注目すると、本質を見誤る。過去35年のアメリカ政治で注目すべきなのは、極右勢力と共和党、そして右派メディアがどう融合したかだ。
テレビ、書籍、そして「思想家」
ブライトバートの元会長スティーブ・バノンはトランプ政権の首席戦略官となり、オルト・ライトを政治の主流に据えた。バノンは失脚したが、トランプの政治思想の基礎は常に白人至上主義にある。ホワイトハウスでのオルト・ライトのもう1人の大物、大統領顧問でスピーチライターのスティーブン・ミラーは、今もトランプの側近として政策に大きな影響を与えている。
オルト・ライトと「主流」の右派を融合すれば、名誉と影響力、そして資金がもたらされる。トランプと共和党の代弁者であるFOXニュースは、オルト・ライトの思想の多くを支持し、ニュース局で最高の視聴率を誇る。
大手出版社はいずれも傘下の保守系出版社から、極右の読者層の要望に応える本を出している。スレッシュホールド(サイモン&シュスター)やセンティネル(ペンギン・グループ)、独立系のレグネリーなどの出版社だ。
右派の「思想家」には、ローラ・イングラム、グレン・ベック、アン・コールター、ビル・オライリーなどFOXで人気の論客が多く、ここ約10年の間に多くのベストセラーを出している。スペンサーや『ターナー日記』などが広範なファンを集めているわけではなく、オルト・ライトが勢いを失っているように見えるのは事実だが、その思想は一部の「主流派」の保守をオルト・ライト寄りに大きくシフトさせた。
オルト・ライトの多くの主張と、国民の40%が支持する思想の違いを見分けるのは難しい。一方で、国民の60〜70%が反対しているにもかかわらず、オルト・ライトの信奉者が今も米政府を支配している。
15年以上前、私はアメリカの情報機関で働く同僚たちと共に、次のように警告した。国際テロ組織は指揮統制型から近代的分散型ネットワークに変わっている。信念や態度を共有するフラットな組織であり、複数の経路を通じて指示伝達を行う。さらに政府に対しても、国家や国民の生命にとって最も危険な脅威は、国産の極右(つまりオルト・ライト)の個人や組織だと――。
オルト・ライト運動は人種をめぐる憤りや過ぎ去りつつある時代への懐古などを原動力にしている点で、イスラム過激派を生んだ現象に似ている。エセ知識人は、ゆがんだ意見にそれなりの化粧を施す。その流れが、今や「主流派保守」のメディアや本、そして共和党を操っている。
<本誌2018年10月30日号「特集:ケント・ギルバート現象」より転載>
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