Qアノンとは違う「日本型陰謀論」が保守派の間で蠢いている
結論として、Qアノンによる数々の陰謀論は、日本の保守派にはほとんど影響を与えていない。というより、Qアノンの主張する陰謀論自体、日本の保守派にはおおむね理解できない代物であった。
Qアノンは世界規模で活動する悪魔崇拝者や小児性愛者、児童売買に関与する秘密結社がディープステート(国家内国家)として存在し、トランプはそれと戦う前衛だと喧伝した。Qアノンは対抗馬のバイデンは無論、米民主党重鎮全般、ヒラリー・クリントンらもそれと関係があると主張した。当然これは全部ウソである。
Qアノンは、キリスト教圏で禁忌とされる悪魔崇拝(そのゆがんだ迫害の代表は中世欧州を席巻した魔女狩りである)を児童買春等と関連させて展開したが、実のところこういった陰謀論は日本の保守派には届かなかった。なぜなら日本の保守派はキリスト教について無知だからだ。
キリスト教を理解していない
日本の保守派は、そもそもキリスト教が「カトリック」「プロテスタント」「正教会」等に大別されるという認識も曖昧である。単純に「キリスト教は一神教である。対して日本は多神教であり、八百万(やおよろず)の神がおられるから日本のほうが優れている神国だ」程度にしか思っていない。
実際には、キリスト教は諸派の解釈にもよるが三位一体(父と子=キリストと聖霊)を神格とし、それ以外に人間たる「聖人」を置く。聖人は各地で尊崇の対象になっており、これはキリスト教が非キリスト教圏に浸透していく過程で、土着の多神教的価値観を包摂したものでもある。
よって、キリスト教は単なる一神教だ、というのはあまりにも幼稚な理解だ。ともかく日本の保守派はキリスト教への基礎理解を持ち得ないので、Qアノンの陰謀論をあまり理解していない。
加えて日本は、Qアノンの根底にあるキリスト教的陰謀論とそりが合わない。日本の保守派は、私の調査・分析のとおり(詳細は『ネット右翼の終わり』〔晶文社〕等に詳しい)、大都市部における中小・零細企業経営者や管理職などの中産階級が寡占的だ。
そのほとんどの宗教観が、日本の中産階級が普遍的に持ついわゆる「葬式仏教」であり、かつその大多数が公明党と創価学会を嫌悪する傾向があるからである。
なぜかと言えば、さまざまな評価があるものの、自民党(特に現在主流派閥である清和政策研究会)のタカ派的傾向(憲法9条改正や靖国公式参拝、安保法制など)に対し、連立与党である公明党は微温的に賛成しつつも、原則的にはその支持母体たる創価学会が強いアレルギーを持っているからである。
よって保守派は「安倍前総理の足を引っ張っている」として公明党と創価学会を敵視し、かつては「自公連立」を「自維(維新)連立」に組み替えるべし、という論調が大勢であった。