東京五輪の成功がわが祖国・中国を変える
今週のコラムニスト:李小牧
〔10月15日号掲載〕
前回もお伝えしたが、私は出演した映画『人間(ningen)』がトロント国際映画祭に招待されたため、9月初めにカナダにいた。憧れのレッドカーペットを歩き、中国人と日本人、さらにフランス人とトルコ人が力を合わせてつくった「わが子」が栄冠を勝ち取る瞬間を待った。
そしてその瞬間がついにやって来た。「わが子」が見事に偉業を成し遂げたのだ!──ただし、栄冠を勝ち取ったのは『ningen』ではなく、歌舞伎町案内人が25年間過ごした最愛の街、Tokyoだ。
ご存じのとおり、私がトロント滞在中だった9月7日、IOC(国際オリンピック委員会)の総会がアルゼンチンで開かれ、東京がトルコのイスタンブールとスペインのマドリードを抑えて、2020年夏季オリンピックの開催地に選ばれた。
浮気がばれて、中国人の妻にハイヒールのかかとで頭を殴られても泣かない私が、この時ばかりはうれし泣きに泣いた。中国のマイクロブログ新浪微博(シンランウェイボー)で「トロントで東京の成功をお祝いする!」と喜びの声を書き込むと、早速バカな中国人ネットユーザーから「漢奸(売国奴)!」と返信があった。だが構うものか。
長年日本で苦労を重ねてきたわれわれ在日中国人にとって、08年の北京に続き、第二の故郷である日本でオリンピックが開かれるのは何よりの喜びだ。ネットを通じた妄想でしか日本を知らない「噴青(フェンチン、中国版ネット右翼)」とは訳が違う。
■あの薄煕来が東京五輪に来る?
2020年の夏、私はちょうど60歳になっている。日本人の前妻との間にできた長男は25歳。彼は今、日本の大学で中国文学を学んでいる。来年小学1年生になる中国人妻との間の次男は13歳。彼は問題なく中国語をしゃべれる。今の私の目標は、2020年に3人で「東京五輪案内人」として五輪観戦に来た中国人観光客をガイドすることだ!
アベノミクスと五輪のおかげで、日本はすべてが上向きに変わった。まるで25年前、私がやって来たばかりの頃のバブルが再来しかけているようだ。インフラや見た目は大きく変わらないかもしれない。ただ久々の国際的イベントをきっかけに、7年後の東京と日本人の「中身」は、今とは大きく変わっているだろう。
わが祖国、中国にとっても東京五輪は人ごとではない。前回、東京五輪が開かれた1964年の中国はソ連との戦争準備で大忙しで、隣の国のオリンピックどころではなかった(そもそも日本との国交がなかった)。
ただ今回は違う。共産党にとってまずい情報を検閲する「防火長城(グレート・ファイアウォール)」があるとはいえ、今はネットを通じてかなりのニュースが入る時代。民主的な日本で開かれるオリンピックの盛り上がりは、残念ながら民主主義のまだまだ足りないわが祖国を大いに刺激するはずだ。
影響力のある微博ユーザーを突然、買春容疑で逮捕するなど、最近の中国政府は自分たちの意にそぐわない勢力を容赦なく取り締まり始めている。汚職で有罪になった政治家の薄煕来(ボー・シーライ)も、やっていたことはマフィア摘発や貧しい人の生活改善で、習近平(シー・チンピン)国家主席の政策と変わらない。要は政治的な派閥争いにすぎない。
ただいくら政府が圧力を強めたところで、自由や民主主義を求める中国国民の流れは止められない。もし共産党がその流れを無理に押しとどめようとすれば、ひょっとして東京五輪を待たず中国に「大変化」が訪れるかもしれない。
聞くところによれば、薄煕来は何年か前に東京にこっそりやって来て、歌舞伎町を「視察」したこともあるのだとか。2020年に彼が堂々と東京を再訪し、わが歌舞伎町の「レッドカーペット」を歩く日が来る......かもしれない。
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