トロント映画祭で訴えた『人間』と日本の底力
今週のコラムニスト:李小牧
〔9月17日号掲載〕
外国の映画祭でレッドカーペットを歩くという李小牧の夢がついにかなった!
......歌舞伎町案内人がまた冗談を言っている、歩いたのは歌舞伎町のストリップ劇場の赤じゅうたんだろう、と皮肉を言わないでほしい。これまで著書の『歌舞伎町案内人』が映画化されたり、ジャッキー・チェンの作品に撮影協力したりと映画に関わってきた私だが、残念ながら出演経験はなかった。それが9月上旬、カナダで開催されたトロント国際映画祭に「男優」として招待されたのだ。もちろんAVではない!
出演したのは『人間(ningen)』という作品。私の友人でもある東京の「メディア総合研究所」の吉野眞弘社長が、トルコ人とフランス人の共同監督と共に文字どおり手弁当で作った映画だ。トロント国際映画祭の「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門で入選した。
それにしても、バレエダンサーとしては超一流だが、俳優の勉強などしたことのない私がどうして映画に出演できたのか。
実はこの映画は、フィクションとノンフィクションを混ぜ合わせたような不思議な構成が特徴だ。基本的なストーリーの流れはあるが、俳優は撮影現場で生まれる感情に合わせて即興で演技し、ストーリーもそれに合わせて変化していく。私が演じたのは歌舞伎町案内人である私自身。歌舞伎町という舞台で毎日「演技」を続け、虚と実が入り乱れる私にとってぴったりの映画だった。
会社が経営難に陥ったことで精神を病んだ社長が、さまざまな人との出会いを通じて生きる意味や愛を再発見する様子を、キツネとタヌキの化かし合いになぞらえて描く──。ある意味きわどい設定の映画で、吉野社長と会社のスタッフ、それに吉野社長の妻も出演している。
私は窮地に立たされた吉野社長に歌舞伎町で稼いだ全財産を提供して中国に帰る、という何ともおとこ気のある役だ。日本に何年間も住んで日本人に助けてもらった中国人が、感謝の気持ちを込めて全財産を日本人に渡すという設定は、私の感情をよく表している。
■中国人学生が見た東北の底力
先日、7月の訪日観光客数が円安のおかげで初めて月間100万人を突破した、というニュースが流れた。ただ寂しいことに、わが中国からの観光客は前年同月比で3割減った。明らかに尖閣問題による両国の関係悪化が影響している。
この夏、私は夏休みを利用して日本にやって来た中国人学生を、日本の若者と一緒に気仙沼や石巻、南三陸など宮城県の被災地に案内した。東日本大震災直後に入って以来、私にとっても約2年ぶりの被災地だったが、地震と津波、原発事故という災害の「三重苦」に遭った東北の人たちが、元気に夏祭りができるまで復興している様子に本当に驚かされた。
わが祖国とわが第二の祖国の関係が「シマ」をめぐる争いをきっかけに冷え切ってから、3年近くたつ。「復縁」のためには、互いの国民が相手の国を訪れて、肌でその国を感じることが何より大事だ。中国の学生が夏休みの旅行先に被災地を選んでくれたことはうれしかったし、頑張る東北人の姿を通じて、日本人の国民性とその底力を理解してもらえたと信じている。
小さな企業が手弁当で完成させ、トロント国際映画祭で見事入選した『人間』も、日本人の底力を示すこれ以上ない実例だ。このコラムが載った号が発売される頃にはプレミア上映は終わっているだろうが、私はレッドカーペットで取材を受けたらこう答えようと思っている。「この映画に出演することで、日本に恩返しできたことが何よりうれしい」と。
実は映画の最後に大どんでん返しがある。最近また中国と日本の間でスパイ問題が再燃しているが、私の「日本愛」にどんでん返しはないのでご安心を。
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