韓国での村上人気と日韓和解への巡礼の年
今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク
[9月10日号掲載]
この夏は東京もソウルも猛暑が続いたが、日韓関係は冷え込んだまま。いまだに「冷戦中」だ。
近頃の日本では、韓国や韓流に対する肯定的な言説が抑制される傾向がある。かつて韓国にとって日本は「好きになってはいけない国」だったが、今では日本にとっての韓国も同様だ。一方、日本で最近目にしなくなった少女時代は、大統領の訪中の際に開催された「中韓友情コンサート」に参加し、流暢な中国語を披露しながら、新たなフィールドを見据えていた。
日本から韓国への旅行者も減った。先日、『冬ソナ』のロケ地のに行ったが、日本人の姿はなく、雪だるまの模型と季節外れの記念写真を撮るのは中国人ばかりだった。ソウルの繁華街、の店も以前は日本語・中国語ができる店員を5対5で雇っていたが、今では3対7ぐらいだという。
それでも良いニュースはある。村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が8月中旬まで、韓国で7週連続売り上げ1位を記録した。発売初日には熱狂的なハルキストたちが書店で行列をつくったことで話題になった。村上春樹は行列に並ぶことを嫌う韓国人を、しかも本を買うために並ばせた歴史的人物となった。
いくら世界的に人気のハルキとはいえ、「反日」とされる韓国で、しかも最も「反日的」とされる8月にこれほど読まれていることの意味は決して小さくない。
韓国ギャラップの世論調査によると、韓国人の4人に1人がハルキの作品を読んでいる(20~30代では3人に1人)。最も好きな外国人作家としても、フランスのベルナール・ウェルベルに次いで2位だ。
ハルキはもはや文化現象だ。キム・ヨンス、キム・ジュンヒョクなどの人気作家がハルキを絶賛し、彼らのファンがハルキ作品を読むという流れも生まれている。ある人気女子アナはハルキの『遠い太鼓』を読み、アナウンサーを辞めてスペインに渡り旅行作家に転身する決意をしたという。
■日本に対する関心とリスペクト
ハルキストの中には、主体的でないチープで薄っぺらい人生に終止符を打ち、意味のある人生を生きたいと願う人も多い。真の豊かさや本質に目を向けようとする彼らの存在は、両国の関係にも好ましい影響を与えるだろう。
日本小説がベストセラー100位以内に20作品以上もランクインしていた数年前ほどではないが、江國香織、東野圭吾、宮部みゆき、塩野七生など今でも日本小説は根強い人気を博している。近年では『ビブリア古書堂の事件手帖』などライトノベルも人気だ。
日本では韓流を快く思わない人も多いが、そういったアイドルより、多国でこれだけの人気を誇る作家のすごさに目を向けるべきではないだろうか。文学作品に心酔するには、その国への関心とリスペクトが必要なのだから。
韓国で「新作が最も期待できる作家」とされるハルキの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、やはり期待を裏切らなかった。それは個人の記憶と和解の物語だが、僕には今の日韓関係に対するメッセージのようにも読めた。
ハルキは何度も「記憶を隠すことはできても、歴史を変えることはできない」とつづっている。過去を忘却して記憶を都合よく改ざんするのではなく、歴史に向き合うことが重要であり、深く傷つけ合った者同士こそ、真の意味での和解が可能だ──そう両国に教えてくれているのではないか。
主人公の多崎つくるが過去の真実を明らかにし、自分と友人の傷を癒やし、新たな自分を探す巡礼の旅に出たように、これから僕もハルキを道連れに日韓和解のための巡礼の旅に出ようと思う。彩り豊かな日韓関係を「つくる」ために。
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