ロボット・ジャーナリストの登場で記者は用済みに

2014年3月26日(水)14時25分
瀧口範子

 ロサンゼルス・タイムズ紙が、地震速報をロボット・ジャーナリストを使って報じたことが話題になっている。

 さる3月17日早朝、揺れで目を覚ましたケン・シュウェンキ記者は、ベッドから飛び起きるやいなやコンピュータに向かった。そこにはすでに地震速報の記事が生成されており、シュウェンキ記者は「パブリッシュ」のボタンをクリックしただけ。

 記事には、アメリカ地質調査所による震度、マグニチュード、震源地などが記されているだけではなく、「揺れは南カリフォルニアの幅広い地域で感じられた」とか、「過去10日間で、同じ地域を震源地とするマグニチュード3.0以上の地震は起こっていない」などと書き足されていて、まったく機械的とばかりは言えない、気をまわした表現も使われている。

 このロボット・ジャーナリストのニュースは、われわれのような「書く」ことを職業する人間に考えさせるものがある。ポイントはふたつあるだろう。

 ひとつは、ジャーナリストもプログラムを理解するようになる必要があるということ。地震速報を報じたロボット、「クウェイクボット」は実はシュウェンキ記者自身がプログラムを書いている。同氏は、ロサンゼルス・タイムズのデジタル・エディターだ。

 地震の多い日本では、テレビの地震速報はほぼ自動化されていると思うが、シュウェンキ氏は、ロサンゼルスで起こる殺人事件もロボットがリアルタイムで記事を生成するようにした。この「殺人レポート」は、過去12ヶ月の殺人事件を地図上に表示し、インタラクティブに詳細が引き出せるようになっている。また、事件が起こると地震と同様、基本的な事項がすぐさま記事で報じられるしくみだ。

 自動生成ニュースは、第一報を正しく速報するために実に有効だと言えるが、自分でプログラム自体が書けなくても、どこのデータをどう使えば意味ある記事になるかという知識を持つことは、ジャーナリストにはもう必須のものになっている。

 だが、もうひとつの考えさせられる点は、ロボット・ジャーナリストはこんな第一報だけでなく、他の領域にもどんどん進出し始めているということだ。

 すでにアメリカには、データからそれらしい記事を生成するロボット・ジャーナリズム会社が数社ある。よく使われている分野はスポーツと金融関連だ。

 スポーツなら全米津々浦々の試合を、リトル・リーグのものまで含めて伝えることができる。ロボットは、データとAI(人工知能)、機械学習などの能力を組み合わせて、読むに耐える以上の記事を生成し、対象の読者に届ける。その際、勝ったチームだけでなく負けたチームの話題も入れるとか、英雄的プレーに焦点をあてるといったことを、アルゴリズムをちょっと書き換えるだけで調整できる。もう少し人間味を加えたいのならば、経験のあるジャーナリストがテンプレートのようなものを作ってロボットに学習させ、深みを加えた内容にすることも可能という。

 金融記事の場合は、業績の内容、株価の変動、社内の誰が株を売ったかといったような内容だ。こうしたニュースを一般読者に向けるのではなく、特定の株主のためにパーソナライズすることも、ロボットには簡単にできるらしい。

 最近よく、「ロボット技術の発展で失われる職業は何か」といったことが話題になる。製造現場の工員、兵士、レジの店員、薬剤師などと並んで、ジャーリストや弁護士などが出てくるのをご存知だろうか。

 弁護士に代わって、前例やドキュメントに目を通すような作業は高度なソフトウェアが行うようになる。そしてジャーナリストに代わって、データや分散したニュースから、それなりに読み応えのある記事を構築、生成するのはロボット・ジャーナリストだ。ロボット・ジャーナリストがピューリッツァー賞を受賞する日もいずれやってくると予言する関係者もいるほどだ。

 ピューリッツァー賞はどうか知らないが、人間のジャーナリストがどうすればロボットと差別化できるかに知恵を絞らなければならないのは確かだ。ロボットは、人々がツイートしているようなちょっとした小話を総合して、エモーショナルなストーリーに仕立てたりもできるようになるだろう。人間が一人でできないことをAIは難なくやってしまうから、記者が「独自に取材して記事にする」と息巻いたところで、本当の勝ち目を獲得するには、足を使うだけでなく有効に知恵を絞らなくてはなるまい。

 ジャーナリストがロボットに置き換えられる日が今すぐにやってくることはないだろうが、潮流は明らかにその方向へ向かっている。今ですら、貪欲にストーリーを消費するインターネットの中で、書き手はコンテンツ工場の工員になっているようなふしもある。だが、これからはどんどん能力を高めるAIが競争相手になるというわけだ。

 AIの向こうを張るにはどうすればいいか、あるいはAIと一緒に働いた方がいいのか。そんなことを早めに考えた方が得策なのだ。

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