グーグルリーダー廃止でわかったクラウド利用の危うさ

2013年3月26日(火)13時11分
瀧口範子

 人気のあったRSSリーダー「グーグルリーダー」が廃止になると発表されて数日後、グーグルが今度は「キープ」というメモやアイデアをクラウド上に書き留めておけるサービスを開始した。

「さすがグーグル、次々と新しい製品を開発し、新陳代謝もいい」といつものように賞賛したいところだが、ここへきて世の中の反応がちょっと変わってきている。

 その理由は、グーグルリーダーを深く使い込んでいる人たちがたくさんいたことだ。重要なニュースを一カ所に集めて目を通せるグーグルリーダーを、日々の情報収集の手段に使っていた人はたくさんいた。グーグル側は廃止する理由を「ユーザーが減ってきたから」「限られたプロジェクトに集中したいから」としているが、グーグルリーダーは人気があった。それなのになぜ終わらせてしまうのか、という疑問が1つ。

 もう1つは、グーグルのサービスに頼っていると、これからもたびたびこんな目にあうことになるのかもしれないという印象が強くなってきたことである。

 グーグルは創設以来、エンジニアたちが自分たちのアイデアを自由に展開させて、インターネットにイノベーションを起こしてきたことで知られる。頭のいい彼らが次々とアイデアを出し、そのコードを超高速で書き上げ、サイトで公開する。

 そうしたサービスはたいてい「ベータ版」と呼ばれる試作品段階であることが多く、ユーザーたちが実際にそれを使うことで、バグがわかったり、使いにくさのフィードバックなどをもらったりして改良を加えていくというのが、いつものやり方だ。ごく普通のユーザーもそんなグーグルの方法論に共鳴して、多少使い勝手が悪くても、がまんしてきたのだ。

 もちろん、今回のようにサービスがなくなってしまうということもよくあった。だがそれは、予想されたほど便利ではなかったとか、ユーザーが集まらないといったような場合である。だから「まあ、そんなこともあるだろう」と思う人々が多かったし、これほど柔軟にサービスを開始したり止めたりすること自体が、新時代の企業のあり方なのだろうと深読みさえしたものだ。

 ところが今回のように、人気サービスを廃止したすぐ後にまた新しいサービスが発表されるといったなりゆきを見せつけられると、「一体グーグルはどの程度の長期的視野に立ってサービスを開発し、世に出しているのだろう」という疑問がわき上がってくる。

 特に新たに発表されたキープは、すでにあるエバーノートというサービスに類似している。そちらの人気も高いので、キープはいずれエバーノートに負けて、また廃止になるかもしれない。その意味では、今回のふたつの発表は人々を疑心暗鬼にさせ、グーグルへの好感度にも傷をつけかねない失策だった。

 また、グーグルリーダー廃止で改めて気付かされた重要ポイントもある。それは、クラウド上にあるサービスには、ひとつ間違うとこれまで貯めてきたものがすっかりなくなってしまうリスクもあるという点だ。グーグルリーダーならまだしも、写真やドキュメント、メール、友人たちとのやりとりなどの過去コンテンツも、サービスの廃止が発表された後一定期間を過ぎるとアクセスできなくなってしまうのだ。

 グーグルの利用規約には、「グーグルがサービスを中止する際、それが問題なく行える場合には事前にユーザーにお知らせし、サービスから情報を引き出してもらえるようにします」と書かれている。もっともな規約だが、うっかりその時期を逃してしまうことがないとも言えないし、データを引き出す手間もかかるし、もっと突き詰めて言えば「完全にそうする」とは約束していない。

 最近は、検索のようにただ道具を使うだけでなく、クラウドにいろいろなものを書き残したり、置いておいたりするようになっているので、サービスとコンテンツはほぼ同じ意味になっている。これまでは新しいサービスが発表されると、「ちょっと使ってみようか」と気軽に試していたが、今やクラウドにいろいろな中味を預ける身となっては、そうそう簡単に踏み出せなくなってきたのである。

 グーグルのサービスが無料というところも、今さらながら気になり始めた。「やっぱり大切な機能は、有料のサービスを利用した方がいいかもしれない」という気がしてくる。無料が嬉しくて使っていたのだが、無料ならいきなり廃止されても文句の付けようもないだろう。

 グーグルの過去のサービスには、数年続いたものもあれば、ほんの数カ月で終了してしまったものもある。インターネットテレビに関連したあるハードウエアは、鳴り物入りで発表されたのに、その後発売もされなかった。グーグルグラスや自動走行車も含めて、グーグルの旺盛な開発力は確かにすごい。だが、1ユーザーとしては、共感を感じていたグーグルのいいところがそのまま悪い方へ傾きかねない危険を感じてならない。

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