安倍首相、中東「原発売り込み」外交の成果は
今月始め、安倍首相はサウディアラビア、UAE、トルコを歴訪した。首相の中東訪問は、安倍氏が最初に首相となった時以来の、6年ぶりだ。民主党時代には、外務大臣クラスの歴訪だけだったので、久々の首相外交になる。
今回ほど経済外交の色彩がはっきりしているのは、珍しい。二年前には韓国の李明博大統領(当時)が、大量のビジネスマンを引き連れて湾岸産油国からトルコなど各国を訪れ、建設事業から韓流ドラマまで、大々的な韓国製品の売り込みを行った。そのとき巻き返せなかった鬱憤が、ここに噴出したのかもしれない。
日本製品、企業は中東で圧倒的な知名度と信頼を維持しているので、日本の対中東経済外交の復活は、現地の人々も歓迎するところだろう。遅ればせながら戦後復興ビジネスに参入が活発化しているイラクからは、「ようやく日本が戻ってきた」と、期待を寄せる声が聞こえてくる。
だが、経済外交の目玉が原発というのは、なんともしっくりこない。原発自体の問題はさておき、原発は果たして中東社会が期待する「これぞ日本」と言う製品なのだろうか。(ちなみに、原発輸出と聞いて、かつて80年代後半にイラクで囁かれていた噂を思い出した。突然東欧製の食品類が市場に安く出回るようになったのだが、それはチェルノブイリで汚染されて先進国で売れない商品を、イランとの戦争で外貨のなくなったイラクに安く売りつけているからだ、というものだ。)
70年代後半以降、中東のマーケットを席捲した日本製品は、車や家電から建設プラントまで、ありとあらゆる範囲に及んでいた。久々の売り込みでの目玉商品が、そうした過去に知名度の高い製品じゃない、というのは、逆に心もとない。UAEで合意した原発建設計画も、韓国企業がすでに受注した大規模事業の一部を任されるだけだ。経済外交完全復活とは、ほど遠い。
さらにしっくりこないのは、日本の中東外交のもうひとつの柱だった仲介外交が、どこかに消えていることだ。前回安倍首相が中東歴訪した国で、今回行かなかったのは、エジプトである。その前の小泉首相は、湾岸産油国も回ったが、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンにも行った。つまり今回の中東訪問は、中東和平問題を始めとする政治案件が抜けているのだ。
かつて日本の対中東外交は、米国が仲介者として機能できないような対立関係において、陰に陽に仲介の役割を果たすことに、意義を見出していた。80年代、米国と直接のパイプをもたないパレスチナの代表を日本に呼んで、米国との話し合いの道筋を模索したこともある。イランのハータミー首相を日本に呼んだときも、米国が表立って動きにくい交渉事を引き受ける役割を持っていた。
その意味での日本の役割は、残念ながら薄らいでいる。他方、そのような役回りを果たすのが、中国だ。安倍首相の中東歴訪の一週間後に、中国はイスラエルからネタニヤフ首相、パレスチナからアッバース議長を招聘して、中東和平交渉を積極的に主導しようとしている。
「米国以外じゃないと果たせない」役割が、中東政治には多々ある。中東和平しかり、対イラン交渉しかりである。かつてはそれは日本に期待されていた。いまや中国にお株を奪われ、経済進出では韓国の後塵を拝している。原発輸出以外の、日本にしか果たせない役割というのはまだちゃんとあって、中東社会もそれ――つまり平和外交だ――を期待していると思うのだが。
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