銃規制反対はどれだけの力を持つのか

2013年1月15日(火)11時18分
池上彰

 私がNHK社会部記者の時代、悪徳商法から身を守るための企画ニュースをいくつも制作しました。悪徳業者を直撃したり、手口を紹介したりしたのですが、取材先の消費者センターの人が言った言葉が忘れられません。

「悪徳商法に引っかかる人は、そもそもこういう番組なんか見ないのよねえ」

こんなことを思い出したのは、「ニューズウィーク」が銃規制を求める記事を掲載しているからです。

 去年暮れに起きたアメリカ・コネティカット州ニュータウンの小学校での銃乱射事件。小学校1年生20人と校長や教員6人が犠牲になりました。あまりにむごい事件。さすがにこれだけの事件となれば、アメリカでも銃規制の動きが高まるだろうと思っていたら、なかなかそうはならないようです。

 本誌日本版新年合併号は、銃をめぐる記事が3本も掲載されています。銃規制を進めるべきだという編集部の強い意向がうかがえます。

 でも、アメリカ国内では、この考え方が主流にはなりきれていないんですよね。

「ニューズウィーク」が、こういう論陣を張れば張るほど、「東部のインテリの勝手な主張」と考えて反発する人たちがいるのもアメリカなのです。それよりも、銃支持派は、そもそも「ニューズウィーク」なんか読まないでしょう。ここで、私は「悪徳商法に引っかかる人は...」の発言を思い出したのです。

 銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)は、ウェイン・ラピエール副会長が記者会見して、「すべての学校に武装警察官を常駐させればいい」と主張しました。この主張は正しいのか。3本の記事のうち「銃支持派が導く被害妄想な未来」は、事実をもって反論します。

「99年に銃乱射事件が起きたコロラド州のコロンバイン高校には、ちゃんと武装した保安官代理がいた。ラピエールの会見中にもペンシルバニア州で別の乱射事件が起きているが、その現場にも武装した州警察官がいた」

 NRAの主張は、どんな未来をもたらすのか。この記事は、論理的帰結を次のように提示しています。

「NRAの圧力で銃規制の緩和が進むにつれ、警察の監視対象が広がっている。今や政府が個人のメールをのぞき、電話を盗聴し、住宅地の上空を警察の無人監視機が飛び回っている」

 この結果、NRAの主張する自由な国は、「幼稚園は高い塀に囲まれ、すべての市民の精神状態を国家が監視し、ありとあらゆる場所で警官が目を光らせる」ことになっていきます。

「NRAとその支持者が死守しようとする唯一の自由とは、人を殺す自由にほかならない」

 みんなが銃を持てば、みんなが「自警団」の意識を持ち、よそ者を排除する動きに出るかもしれない。ハリウッド映画が描くような暗いアメリカの未来です。

 悪徳商法にひっかかる人は個人レベルの被害ですが、NRAの積極的な主張は、アメリカを暗い未来へと導きます。

 NRAは、豊富な資金で銃規制反対派の議員を育成し、銃規制派の候補を選挙で落選させてきました。これが、銃規制が進まない理由です。

 オバマ大統領は、次の選挙を心配しなくて済む立場になりました。選挙を心配しなければ、なんらかの対策を取りやすくなりますが、法律を制定する立場の連邦議会議員には、「次の選挙」があります。議会の同意を得られる規制が、どの程度のものになるのか。

 アメリカが大好きな私も、この点ではアメリカが嫌いになるのです。

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