ロムニーは「好人物」だけど

2012年9月28日(金)11時00分
池上彰

 感心はしたけれど、感動はしなかった。これが、今年8月末、フロリダで開かれた共和党大会の会場でミット・ロムニー候補の演説を聞いた私の感想です。

 巨大な会場を埋め尽くしたのは、全員が共和党員。ロムニーの演説の一言一言に歓声を上げ、盛り上げてくれますから、演説は大成功に見えます。この華やかさには圧倒されました。見事なものです。演説が下手で聴衆も盛り上がらない日本の政治集会とはえらい違い。政治家の演説それ自体がエンターテインメントの域に達しているのが、アメリカです。

 とはいえ、ロムニー自身の魅力に惹きつけられる感じがしないのは、なぜだろう。そんな疑問を持っていたのですが、本誌日本版10月3日号の「嫌われロムニーのご都合主義」の記事を読んで合点がいきました。

この記事では、ロムニーがなぜ愛されないかを分析しています。「共和党関係者の間には、党公認候補の座を懸けてロムニーと争った者は決まって彼を嫌いになるという公然の秘密がある」。

どうしてなのか。共和党の政治家には「信念の人」が多いが、ロムニーは政治にビジネスライクに取り組み、実務的なところが愛されない理由だというのです。

「政治をビジネスのように捉えているから、自分の支持を広げようと広告に頼る。雪崩のように中傷広告を浴びせて政敵を葬る手法は、深い道徳観と信仰の持ち主に似合わないように思える」。

「政治という必要悪」を利用して、「世のため、人のため」を実現しようと考えているのだとしたら、多くの共和党政治家から嫌われてしまうというわけです。

政治をビジネスライクに考え、勝てばいいのだと割り切れば、主張を簡単に変えるのも当然でしょう。「マサチューセッツ州知事選で勝つために左傾化し、大統領予備選で勝つために右傾化した」。

 でも、この記事を書いた本誌シニアコラムニストのジョン・アブロンは、こう書きます。

「とはいえ私は今もロムニーは根は好人物なのだと思っている。問題は彼が政治嫌いで、政策の細部に無関心で、庶民になじめない人柄であること。だから、まるで民主政治を軽蔑しているかのように見える」

 なるほどね。私がロムニーに好感が持てるが親しみやすさを感じないのは、そういうことなのでしょう。

 これでは、11月の結果は見えてきたようです。

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