隣国の新大統領をこき下ろす
「ニューズウィーク」には、時折りどきっとする大胆な記事が掲載されます。本誌日本版7月18日号の「メロドラマ大統領が誕生」も、そんなひとつです。
メキシコの大統領選挙で初当選したエンリケ・ペニャ・ニエト前メキシコ州知事を取り上げ、どんな人物か紹介しています。
これがまあ、私生活の暴露から知識の欠如ぶりなど、これでもかとばかりに悪口を書き連ねています。たとえば、次のように。
「アメリカのジョン・F・ケネディ元大統領やジョン・エドワーズ元上院議員を彷彿させるとの声もある。彼らのように聡明だからではなく、彼らと同じくハンサムで女好きだからだ」。
ジョン・エドワーズ元上院議員が果たして「聡明」かどうか、いささか疑問ですが、ニエト新大統領をからかうために引き合いに出されたのですね。
ニエト新大統領はメキシコの最低賃金額を知らない(日本の総理や政治家は東京の最低賃金額を知っているのかしらん)、メキシコの主食トルティーヤの値段も知らない(日本の政治家はコメの値段を知っているのか...)と、その無知ぶりを笑います。
「そもそもペニャ・ニエトはなぜ政治家になれたのか」。こんな文章が登場するのですから、この記事の筆者のスタンスは明確です。「おじも名付け親もメキシコ州知事だった彼は、政界との関わりが深い一族の出身」だからだというのです。政界との関わりが深い人物が政治家になってはいけないのでしょうかねえ。
「中身は空っぽの人物なのに、極めて強力な利権を代表しているのは非常に懸念すべき事態だ」との大学教授のコメントも紹介されています。
ニエトが所属する政党は「制度的革命党」(PRI)。「00年に政権を失うまで、71年間メキシコを支配したPRIは利権まみれで、麻薬密売組織とも取引していた」と、この記事は指摘します。
PRIが政権を失ってから、新政権が麻薬組織の取締りを本格的に始めたことは確かですから、PRIが政権に復帰することへの懸念が生まれるのは当然のことでしょう。
しかし、これまでの政権の麻薬取締りの手法が多数の死者を生み出し、国民がうんざりしていた事実もあります。それを書かないで、新大統領をあげつらうのは、いささかバランスを欠いた記事だと思うのですが。
アメリカのニュース週刊誌が、隣国の新大統領をこき下ろす。なんだか"上から目線"を感じてしまいます。こんな大統領を選んだメキシコ国民への侮蔑意識も見える気がします。
まあ、自国の元大統領であるケネディについても、「ハンサムで女好き」と表現するのですから、あらゆることに批判的であるジャーリズム精神あふれる記事と評価できなくもないのですが...。
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