「反原発ムラ」に閉じこもる原子力規制委員会
原子力規制委員会は9月4日の会合で、日本原電の敦賀原発2号機(福井県)について「次回に結論を出したい」と通告した。規制委員会が活断層と認定したD-1破砕帯について、原電は「活断層ではない」とする専門家の意見書を提出したが、規制委員会は検討を打ち切った。このままでは10月の会合で、最終的に活断層と断定する「死刑宣告」の評価書案が出るとみられる。
これに対して日本原電は、原子力規制庁に対する異例の「申し入れ」を出した。それによると「有識者会合において、事前の事務局の了解に反し、突然、当社が6月16日までに提出した資料のみで議論を行い、それ以降のデータ等は考慮しないとの議事進行が行われました」という。規制委員会は、言葉の通じない「反原発ムラ」に閉じこもっているようだ。
「活断層の上に原発の重要施設を設置してはならない」という耐震設計指針ができたのは2013年だが、敦賀2号機が建設されたのは1982年である。1978年にできた最初の耐震審査指針では、過去5万年以内に活動した断層と定義していたが、原子炉建屋などの重要施設を活断層の上に「建てることを想定していない」と書かれたのは2010年である。そのとき活断層の定義は「後期更新世以降の活動が否定できないもの」すなわち過去12万年以内とされた。
今回、規制委員会が活断層としたのは「10万年前ぐらい」とのことなので、旧指針の定義では活断層ではない。つまり「あってはいけない活断層が見つかった」のではなく、活断層の定義を変更したのだ。つまり過去5万年以内という基準をクリアして建てられた敦賀2号機に、過去12万年以内という新基準を遡及適用して再稼働を禁止し、廃炉に追い込もうとしているのだ。
活断層は珍しいものではない。日本列島には約2000もあり、それを避けていたら道路も鉄道もできない。強い地震動が起きるのは地下深部であり、地表付近の断層の上だけ特に地震動が大きいわけではない。建物への影響は、活断層より地盤条件の方がはるかに大きい。活断層の規制が弱かったのは、それほど大きなリスク要因ではないからなのだ。
規制委員会は、今月で退任する島崎邦彦委員長代理の任期のうちに結論を出したいのだろう。彼は民主党政権が残した「反原発ムラ」の中心人物である。専門は地震学だから、原子炉のことは何も知らない。規制委員会は電力会社と話し合うと「癒着だ」と指弾されるので、業者と会合さえしないという。おまけに独立性の高い「3条委員会」なので、他の官庁も手が出せない。こんな「情報過疎」の委員会が、12万年に1度のリスクを理由に原発を廃炉にしていいのだろうか。
敦賀2号機を廃炉にすると約1000億円の資産が失われ、日本原電は経営危機に陥る。原子炉は適法なので、日本原電が合意しないと廃炉にはできない。したがって規制委員会は「廃炉にする」という意思決定もしないで、敦賀2号機の運転認可を無期延期するだろう。現在の耐震基準審査も2006年から始まって完了していないので、同じテンポでやると2020年ぐらいまで引き延ばして「生殺し」にできる。
このような規制委員会の暴走に対して、日本原電が「D-1は活断層ではない」という主張だけを繰り返してきたのは誤った戦術だ。2013年にできた耐震設計指針を、1982年に遡及適用することはできない。行政訴訟に持ち込んで、運転認可を求めるべきだ。敦賀2号機は定期検査もストレステストも終わっているので、規制委員会が(100%出力の)使用前検査を認めれば再稼働できる。
電力会社はこれまで政府の善意を信じて「お願い」してきたが、今の規制委員会は常識的な話の通じる相手ではない。事業者が監督官庁を訴えるのは、アメリカなどでは日常茶飯事であり、何も恥ずかしいことではない。これによって政府と事業者の間に適度な距離ができることは、官民癒着を避ける意味でも望ましい。
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