少子化の原因は「性差別」ではなく厚労省にある
安倍政権の打ち出した「成長戦略」には見るべきものがほとんどないが、意外に海外に受けがいいのが「ウーマノミクス」と呼ばれる女性の活用策だ。安倍首相を「右翼」ときらうアメリカの友人も、これだけは評価する。彼らが「日本もついに女性の権利にめざめた」と評価するのが、先週の東京都議会のヤジ事件だ。
「東京都の第一子出産年齢が32歳と高い」と質問した塩村文夏都議に対して「早く結婚したほうがいいんじゃないか」などのヤジが飛んだ。これにネット上で批判が集中し、ヤジを飛ばした議員が謝罪した。それだけの話だが、CNNなど多くの海外メディアが速報し、塩村議員は外国特派員協会にまねかれて講演した。CNNはこう報じている。
日本の職場では、性差別が当たり前だ。日本の女性が結婚・出産よりも仕事を続けることを選ぶために出生率が低下していると懸念されている。安倍首相はこの職場のギャップを「ウーマノミクス」で埋めようとしているが、依然として男性が管理職の地位の多くを占め、賃金も高い。
そしてCNNは「日本の女性の賃金は男性より30%低く、中央官庁の幹部職員のうち女性はわずか3%だ」と日本のsexismを批判している。彼らは日本の中央官庁で働く女性に取材したこともないのだろうが、私は一緒に働いたことがある。彼女たちが役所を高く評価するのは、性差別がほとんどないことだ。悪評高い深夜の残業も男女の別なくやらされ、賃金も昇進も差別はない。
それなのに管理職に女性が少ない原因は単純である。官民ともに長期雇用が昇進の前提になっているからだ。次の図のように、勤続年数15年以上の男性の比率は25年前からほとんど変わらないが、女性は最近増えたとはいえ、そのほぼ半分である。15年未満でやめる人は、まず管理職にはなれない。
この原因は性差別ではなく、長期雇用・年功序列の雇用慣行にある。経済環境が変わる中で長期雇用を維持しようとすれば、転勤や配置転換をするしかない。勤務地が変わると、夫婦のどちらかが会社をやめる。普通は妻がやめるが、彼女が大卒総合職であっても、いったん出産退職すると再就職はパートしかない。これが女性の賃金の低い原因だ。
つまり結婚・出産が高齢化する原因は、日本の「男尊女卑」の伝統ではなく、こんな時代遅れの雇用慣行を規制で維持する労働政策にあるのだ。私の知人には外資系企業に勤務する女性もいるが、こういう悩みは聞いたことがない。出産して子供が大きくなったら、また元のようなキャリアに復帰でき、収入があればベビーシッターを雇えるからだ。
海外メディアではそういう雇用慣行が当たり前だから、日本の女性の状況を性差別と短絡するのだろうが、それは偏見だ。彼らにとっては自明の「どんな労働者も年齢を問わず職につける」という機会均等の条件が満たされていないことが、日本女性のハンディキャップになっているのだ。
おまけに保育所の定員が足りず、4万人以上の待機児童が発生している。特に出産直後のゼロ歳児を預かる施設がほとんどないため、働く女性にとって出産はキャリアの終わりを意味する。これは10年以上前から問題になっているが、厚生労働省は保育所を増やさない。保育所は補助金で運営される計画経済だから、需要に応じて供給できないのだ。
こういう厚労省の家父長的な政策を変えないで、ウーマノミクスと称して幹部の女性比率を増やすなどの「結果の平等」を強制しても、公正な社会はできない。少子化を防ぐために必要なのは、性別も年齢も問わず優秀な人材が重要な仕事につける自由な労働市場と、働く女性を支援する制度である。
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