アベノミクスという「偽薬」で上がったのは株価だけだった
2012年12月26日に安倍内閣が発足して、まもなく1年になる。この間に「アベノミクス」で株価は急上昇したが、日本経済は本当によくなったのだろうか?
図のように日経平均株価は1年前に比べて50%以上も上昇し、6年ぶりの高値をつけた。これは世界の投資家から無視されていた日本株が見直され、円が下がって割安感が出たためだろう。しかし株価はドル/円とも大きく乖離し、バブルともいわれるアメリカの株価よりはるかに高い。
この株高が実体経済を反映しているなら結構なことだが、今年7~9月のGDP(国内総生産)速報値では、実質成長率は年率1.1%と今年前半から大きく落ち込んだ。個人消費は0.2%増、設備投資は0%増、輸出は0.6%減だ。増えたのは公共投資の6.5%が突出して大きく、住宅投資の2.6%増がそれに次ぐ。
他方、貿易赤字は17カ月連続の赤字になり、2013年度は通年で約12兆円の赤字になる見通しだ。このように円安でも収益が拡大しない最大の原因は、日本がもはや「貿易立国」ではなく、輸出産業が海外生産に移行したためだ。製造業の海外生産比率は約20%で、今やテレビも9割は海外の工場で製造した輸入品である。
このように「空洞化」が起こっても、付加価値が日本に還元されればいいのだが、そうなっていない。日経平均に組み込まれている輸出産業の収益は大きく上がったが、輸入コストの上がった中小企業の収益は落ち、日本経済の「二重構造」の格差は拡大した。
アベノミクスの実態は、日銀の量的緩和だけだ。この1年でマネタリーベース(日銀の供給する通貨)は130兆円から190兆円へと激増し、GDP比では世界一だ。これは確かに「異次元」だが、その結果は白川総裁の時代と大して変わらない。
金融政策の効果を示すコアCPI(食料・エネルギーを除く消費者物価指数)は、マネタリーベースを50%も増やしたのに、0.3%しか上昇しなかった。日銀の指標とするコアCPI(生鮮食品を除く)上昇率も、0.9%と頭打ちだ。日銀の黒田総裁は「2%のインフレ目標達成への道はまだ遠い」と認め、2014年末という期限を先送りしたが、先送りしても2%は無理とみる専門家が多い。
そもそも上の図を見ればわかるように、株価の動きは、単調にマネタリーベースを増やしてきた日銀の金融政策とは無関係に、為替レートやアメリカの株価などの動きを拡大した形で動いている。浜田宏一氏(内閣官房参与)も認めたように「景気がよくなればインフレなんか必要ない」のだ。
しかし株価が1年で50%以上も上がる現象は、1980年代後半のバブル期にもなかった。上昇率が最高だった1986年でも47%だ。今の株価は絶対水準ではバブルとはいえないが、上昇率は異常である。80年代後半の実質成長率は、年率5%以上だったのだ。
要するに「アベノミクス景気」は、円安・株高による「期待」で資産価格が上がっただけで、実体経済は1%程度の低成長にとどまっているのだ。これは危険な兆候である。長期的にはどこの国でも、株価上昇率は名目成長率との相関が高い。80年代後半に日経平均は3倍になったが、名目GDPは30%しか上がらなかった。このギャップが、90年代のバブル崩壊で調整されたのだ。
もちろん「アンチビジネス」でバラマキ福祉しか経済政策のなかった民主党政権に比べれば自民党政権のほうがましだが、今までの景気上昇は民主党がひどすぎたことの反動と、安倍政権に期待する心理的な偽薬効果である。
「病は気から」だから偽薬もきくときがあるが、病気はなおらない。偽薬で症状を抑えているうちに、病気が悪化することもある。雇用規制の緩和は先送りされ、薬のネット販売はまた禁止され、原発はいまだに動かない。来年になって偽薬の効果が切れると、病気がぶり返すのではないか。
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