グローバル資本主義は「ユニクロ化」する
ユニクロの親会社、ファーストリテイリングの柳井正CEO(最高経営責任者)が打ち出した「世界同一賃金」構想が波紋を呼んでいる。朝日新聞で報じられたインタビューによれば、新しい人事制度では「新興国や欧米の社員と共通の土俵で働きぶりを評価し、給与も全世界で統一する」という。
すでに欧米や中国などで店長候補以上と役員をすべて「グローバル総合職」とし、19段階の「グレード」ごとに賃金を決めた。このうち執行役員クラス50人は、どの国でも同じ評価なら報酬や給与を同額にした。年収は最低2000万円で、最上位は柳井氏の4億円だという。
このとき柳井氏が「年収1億円と100万円に分化していく」とのべたことが話題を呼んだが、一般の社員まで世界一律になるわけではなく、「各国の物価水準を考慮する」と書かれている。購買力平価でみると、中国の100万円は日本の1000万円以上になるので、日本は100万円にはならないだろう。
ただ長期的にみると、各国の賃金が均等化することは避けられない。労働生産性を勘案した単位労働コスト(賃金/労働生産性)でみると、図1のように日本はOECD諸国で飛び抜けて低くなり、中国の2倍以下になっていると推定される。
図1 世界各国の単位労働コスト(OECD調べ)
これに対して欧米では労働組合が賃下げを許さないため、インフレが続いているが、2008年の金融危機以降は、世界的に物価上昇率が下がり、デフレ傾向が強まっている。価格の低下は図2のように世界的な傾向で、金融危機のあと過剰債務の削減でデフレになった日本は、世界に先んじて賃下げで新興国との競争条件を強化した「トップランナー」と見ることもできる。
図2 世界各国の消費者物価指数(総務省調べ)
賃金がグローバルに均等化すると、世界的には先進国と新興国の所得格差が縮まるが、先進国の中では柳井氏のいうように「1億円と100万円に分化する」という格差が拡大するだろう。このグローバルな価格と賃金の大収斂の中で生き残るには、ユニクロのように低賃金の国で生産して高価格の国で売る世界戦略を立てるしかない。
もちろん、そんな世界戦略を立てられる企業は限られているので、国際競争に勝てない企業はサービス・外食・福祉・医療などの国内産業に転身するしかない。「ものづくり」にこだわってコスト割れの製品を輸出していると、半導体産業のように壊滅してしまう。
ユニクロの労働条件はきびしいことで有名だが、その面だけを見て「ブラック企業」などと指弾するのはお門違いだ。ユニクロの店員のような単純労働の賃金が新興国に近づくことは、資本主義の宿命なのだ。ユニクロは全世界で2万人の雇用を生み出しているが、そこから逃げる企業は消滅する。
このように資本主義がグローバル化すると、世界の労働者の賃金が生存最低限の国に近づくという未来像は、1848年にマルクスとエンゲルスが『共産党宣言』で予告したものと似ている。社会主義は死んだようにみえたが、中国を含めて新興国では健在だ。ユニクロ化する世界は、150年遅れてマルクスの予言を実現しているのかもしれない。
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